文章

□破壊
1ページ/1ページ




人間のような見た目のくせに犬耳が生えているというなんとも中途半端な姿をしたそいつは、認めたくなくとも私の異母弟だというのは紛れもない事実だった。父上が憎い。人間の女が憎い。当然ながらそいつ自体も憎かった。よくも犬妖怪一族の名を汚してくれたものだと思う。今すぐに消してしまいたいとも思う。しかしそいつは私に触りたいのだと言う。壊したいのだと言う。

「だってお前完璧すぎんじゃねーか。むかつく。いつかぶっ殺したい」

笑いながら言う犬夜叉は不気味だった。不気味なのはその存在自体くらいにしておけ、と思ったが言わなかった。代わりに蔑みの意味を込めて目を細めた。

「…貴様には到底できぬことだな…」
「そうかもしんねぇな。なぁ、殺生丸」

犬夜叉の指先が私の唇に触れる。私の指の繊細さとは違う、角張った指で撫でる。優しくはない。彼は彼自身が思っている以上に不器用だった。

「…俺、お前を壊したい」
「…………」
「貴様には到底できぬことだな、って言わねぇのな」
「うるさい」

無言は諾。うるさいは早くしろ。そう受け取ったのか、犬夜叉は私をきつく抱いて、私の唇にやつのそれで触れた。そのまますぐに舌が割り込んでくる。ゆっくり味わうような甘いものではなく、欲望に飲まれた激しいもの。逃げられない、

「……そんなに私が欲しいか」
「…っ。…んなワケねーだろ」

壊してぇんだよ、犬夜叉は繰り返す。私は呆れて言った。

「貴様が私を壊す壊さない以前に、貴様がいるだけで壊されているものがあるというのに。何を今更。貴様に出来るのは破壊だけだろう」

貴様に出来る最低限をやらせてやっているというのに。それでも満足せぬか、薄汚い半妖。それ以外できぬのだろう?

それでも犬夜叉はふふんといった調子で、「足りない、だろ。おめーも、本当はもっと壊されたいとか思ってるくせによ」と私の頬を撫でた。私は犬夜叉の瞳を覗く。光る黄金。それだけで、言葉では言い表しがたい怒りと苛立ちが生まれる。

「……歪んでいるな」
「は、今更気付いたのかよ」

犬夜叉は心底楽しんでいた。私はその様子を馬鹿馬鹿しい、滑稽だ、相変わらず半妖のやることは理解ができんな、などと思いながら、寄せられた手の平を掴んで口付ける。

「いいだろう、やってみろ」

小さな一言を添えて。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ