文章

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◇兄貴へ/犬夜叉

とても悲しい事を言います。
俺は兄貴の事が好きでした。
兄貴が強いから好きでした。

俺みたいに半妖なんかじゃなくて、
完全な妖怪だから好きでした。
俺みたいに人間になることなんてなくて、
化けられるから好きでした。

頬と額にある模様が好きでした。
あれが犬妖怪の証なんだと聞かされました。
俺にはありません。
だから兄貴は俺の憧れでした。

俺は親父の顔をほとんど覚えていません。
兄貴はそんな親父によく似て強いのだと聞かされました。
だから俺もあんなふうになりたいと思っていました。

なのに俺の兄貴は、
俺を殺したいくらいに俺のことが嫌いだと言いました。

なんで?と聞いたら、
俺が汚れているからだと言いました。

でも俺は兄貴が好きだよ。と言ったら、
俺は殴られました。そして兄貴は俺に「貴様を弟と思ったことなど一度もない。失せろ。」と言ってどこかへ行ってしまいました。

俺は泣きました。
でも誰かが助けてくれるわけもなかった。
だから歯を食い縛って立ち上がります。
そうしてまた、殴られると分かっていて
俺は兄貴のもとへ行くのです。

だって、俺は兄貴の事が好きだから。




◇金環日食/殺犬

「なぁなぁ『きんかんにっしょく』って知ってるか?」
「何だそれは…」
「太陽が月に覆われるんだとよ、かごめに教えてもらった」
「ほお…太陽が月に……」
「なんかこの世の終わりみてぇだよな、太陽が隠れるとかよ…。…って、殺生丸…お前何笑って…」
「太陽が月に食われるわけだろう。ならば、」
「ならば、じゃねぇよお前!俺に掴み掛かるな!」
「この殺生丸が貴様を取って食ってやろうと言っているのだ。おとなしくしていろ」
「おとなしくなんかできるかっ!」




◇髪/犬殺

流れるような髪をひと掬い。
さらさら。思わずうっとりする。

「……何をしている。」
「俺のより、さらさらで気持ち良い。」
「似たようなものだろう」
「そうだ。俺のと似てる。だけど、違う。だから好きなんだ」

柄にもなくそんなことを言って、髪に口付け。不機嫌そうな顔が近付いてくる。

「そんなところより、ここにしろ」

こいつは自覚が足りない。




◇生/殺生丸

ただの汚らわしいそれが、
いのちだとは思わなかった

半妖は半妖で
這いつくばって、
生きて、いる。




◇違い/殺生丸

強者は孤高に
弱者は群れるか、孤独になる

だから私と貴様は
根本から違うのだ。




◇強者は言う/犬殺

途中からなくなっている左側をさすってみる。

「痛ぇか?」
「………」
「痒いか?」
「………………」
「……悪かったな。」
「黙れ。貴様にとって闘いとはそんな生半可なものなのか」

急に睨み付けられる。ったく、誇りだけは異様に高いんだな。面倒くせぇの。

「お前って、闘うことしか考えてねぇんだな」
「弱い奴に言われるなど心外だな」
「うるせぇよ。」

苛ついて、さすっていた場所に噛み跡を付ける。薄ーく血の味がした。

「ただ、さ。こーやって傷つきながらじゃなきゃ、強さって手に入らねぇのかなぁと思ってよ」
「何を当たり前の事を」

弱さを知らない奴は、みんなこうなってしまうのだろうか




◇あのとき/犬夜叉

貫かれた胸、生気の失せた瞳。
俺がいくら手を伸ばしても、一度として取ってくれた事はないけど、もう二度と届かないんじゃないかと思った。届く機会すら消えてしまうんじゃないかと思った。
あんな有様のお前を見たくなかった。

俺の生きる意味が失われてしまいそうで、怖かった。




◇餌/犬夜叉

「戦国最強の大妖怪だぁ?嘘だね。だったら俺に付き纏う必要なんかねぇじゃん。

…俺じゃねぇって?この刀だって?はん、分かってら。自分に相応しいものが欲しいんだろ?ほんと、どこまでいっても自分基準な野郎だな。絶対やらねぇ。お前なんかにやるもんか」

だってこれに頼らなきゃ、お前から俺を訪ねるなんてありえねーもん。




◇必要性/犬夜叉

自分に既に地位があって、力があって、僕がいて、血統があって、居場所があって、誇りがあって、余裕があって。

もしそうだとして、他に何が必要なんだ?
この上に更に絶対的な力を求めるなんて、贅沢なんだよ。

代わりと言っちゃなんだが、半妖の弟なんてどうだ?




◇独り言/犬夜叉

いとも簡単に俺を傷つけるお前が、俺は嫌いだ。
俺はお前に触ることすら叶わないのに。

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