文章

□束縛
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※神楽健在

奈落から解放され自由になったその女は、自由になった筈なのに頻繁に私の前に現れた。

「自由にどこへでも行く、が目的ではなかったのか」
「そりゃあ勿論。あたしは束縛されるのが嫌いだからね」
「ならば何故ここにいる」
「…そんなの、あたしの勝手だろ。あたしの行きたい場所に、偶然あんたがいるだけだ」
「ほお…」

こんな事がもう数回続いた。私の向かう場所へ神楽が先回りしている事に、私はさすがに気付いていた。たまに、わざと私もそちらに向かってやっている事もあるというのに、この言い方は。

「……な、何笑ってんだよ、殺生丸」
「ふん…。神楽、お前はもう少しだけ素直になった方が、まだ可愛げがあると思うのだがな」
「……はっ、…思い上がるなよ。あたしはまだ何も言ってな…っ「神楽。」

私が神楽の手首を掴むと、分かりやすく赤面させた。

「素直じゃないのは口と態度だけ、か」
「ばっ…ばっかじゃねぇの。あんた…」

顔を近付けていくと、神楽がますます強張るのがなんとも愉快。

「さて、改めて問いたいのだが。束縛されるのは嫌いか?」

しかし私がこう問うと、彼女はふざけた調子に戻って挑発的に笑った。

「嫌いだ、って言ったら、どうする?」
「……戯言を。」

神楽の手首を離し、そのまま腕を背中に回す。彼女は驚くほど細かった。神楽のため息が聞こえる。気紛れな風なものだな。これからどうしてくれよう。

「…あんたも、随分と自分勝手だねぇ」
「お前はこれを望んでいるのだろう?」
「さぁ、…どうだか。」

言いながら神楽は、私の胸に顔を押しつけた。

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