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□似た者同士
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「…あ、そうだ…!」
「…りん?」
りんは殺生丸から離れて、犬夜叉から受け取った手拭いの結び目を解く。中からは、お世辞にも綺麗に出来たとは言えないおにぎりがふたつ。
「これ、りんが作ったんだけど…あんまり上手くは出来なかったんだけど…その…」
「寄越せ」
その昔人間の食い物は口に合わんと言っていたのは誰だったろう。殺生丸はりんの作ったそれを差し出されたと同時に手にとって食べる。
「…あのね、これ…殺生丸さまに渡したくて、頑張って作ったんだよ…」
「……」
「初めてだったからぼろぼろになっちゃったんだけど…どうかな?」
「……悪くはないな」
「ほんと?!」
めったにものを誉めたりしないのが殺生丸だということを、りんは知っている。悪くはない、という事は美味しいのだ、きっと。
「よかったあ…。りんもひとつ食べるね」
ほっとした表情を零すりん。殺生丸は顔色ひとつ変えずに、その安堵する様子を眺める。先程までの、強張った姿勢よりも断然こちらの方が可愛らしい。
(まだ、だな…)
いつになったら甘い時間が訪れるのか。人間など、所詮短い時にしか生きられないものだと思っていたというのに、なんなのだろう、この焦れったさは。
「あ、しょっぱい…。でも、ふたりで食べると美味しいねー」
少女はそう言って殺生丸に笑いかけた。ふたりが気付いていないだけで、案外近い未来にこのような平凡な食卓があるのかもしれなかった。