文章
□調べ
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「………………」
「………………」
(はぁ〜、いつまで続くんだこの沈黙は…)
それは遡ること一日。
忙しなく走り回ってやーっと森の深遠で見つけた殺生丸さまのお痛わしさと言ったら、そりゃもう言葉に出来ないくらいじゃった。妖鎧はほとんど壊され、あのモフモフっとした毛皮も血液や泥で汚れてしまうなど、わしが殺生丸さまに仕えてから一度もありはしなかったのだ。
ま、腕斬られた時も大変じゃったが。だが聞いて驚くなよ、あの程度なら殺生丸さまの自然治癒能力をもってすれば、二日で傷は塞がってしまうのだ。さすがは戦慄の貴公子殺生丸さま。
そんな御方が何日も動けずあの場所に留まっていたなど前代未聞。聞いたところによると、犬夜叉めが、「風の傷」とかいう技を会得したらしいじゃないかっ。それを兄上さまに向かって放つなんてどんな神経しとるんじゃ、あやつは!今度会ったら血祭りに上げてやるからな!殺生丸さまが。わしは応援係。
そんなこんなで、とりあえず帰ろうと思ったら、何故か人里の方に向かって進みだすんだもんなー。ほんと、何考えてんのか分からないから困ったもんじゃ。
そしたら、あろうことか、天生牙で人間の小娘生き返しちゃった…。殺生丸さまの気紛れも程々にして欲しいわい。
しかもこの小娘、一向に喋り出そうともせん。よく分からんままわしらに付き纏うのも困りものである。
そして名前も分からぬ小娘と殺生丸さまとが、お互い見つめあいながら黙り込んでいるという冒頭に到るのじゃった。あー、長い説明。
「あの〜、殺生丸さま?」
「……………」
「(無視ですか…)この小娘は一体…?」
まだ幼くて汚らしい小娘はかすかに反応を示すものの、当の殺生丸さまはこちらを見向きもしない。最近ますます扱いがひどくなった気がするんですが、気のせいでしょうか。
「あのー、せ…「うるさい」
「ひいっ、すみませんでした!!」
これは殺されかねない、もう何も口出ししないことにしよう。触らぬ神に祟りなし、とはこういうことだ。
素直に土下座して謝ると、何故かくすくす、と笑い声が聞こえた。はて?と思い顔を見上げると、先程までのきょとんとした阿呆面とは打って変わって、可愛らしい笑顔。なんじゃ、ちゃんと笑えるではないか。って、そうじゃなかった。
「やいっ、小娘!何がおかしい!新入りのくせにあまり調子に乗るでな「……邪見」「ごめんなさいごめんなさい許して下さい」
ぺこぺこ謝るわしを見て、またもや笑い出す小娘。なんじゃ、お前は殺生丸さまが生き返してくれなかったら、狼に食い尽くされていたんじゃぞ。今笑えるだけでも有り難く思え!本当はそう言いたいが黙っておこう……これも生きる知恵なのだ。
もう大丈夫かと思い、そーっと顔を上げたら殺生丸さまが小娘の頭に手をおいて撫でているから驚いた。
嬉しそうな表情してる小娘がちょっと羨ましかった……なんてそんなことは言わんぞ!そしたら殺生丸さまが小娘をそのまま引き寄せて……、わしの存在自体が無視されてるのはもう気にしないことにします、はい。
「お前は、笑っていた方が、良い」
「………ん!」
ああ、あ、殺生丸さまが人間を褒めた…?明日は雨だなこりゃ。いや、この世の終わりかもしれん。それにしても、「ん!」って……なんじゃそりゃ真面目に返事しろばかもの。
そんなこんなでよく分からんまま、人間の小娘がこの一行に同行する事となってしまったのじゃった…。