ショートストーリー
□雨に歌えば
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もう何度目だろうか
好きでもない奴にフラれるのは…
どうしても、そう言われたから付き合った。
ただそれだけ…。
別に、そいつといて楽しいわけでもないし
安らぐ訳でもない。
ただ、俺にとってはそこにいるだけの存在。
決まって奴らは別れ際に
『篤也ってさ、感情ねぇんじゃね?』
そう言って去って行く。
感情がない?
それは違うよ。感情がないんじゃない…おまえらと居ても、楽しくないだけだ。
その証拠にほら、今の俺はこんなに上手に笑えてる。
俺は雨の日が好きだ。
誰もいない公園のベンチに座り、傘も差さずに雨にうたれる。
どんなに笑っても、どんなに泣いても、誰も気付くことはない。
そう思っていた…
あの時までは…
「あの…風邪、引いちゃいますよ?」
そう言って『彼』…『光樹』は俺に笑いながら傘を差し出した。
初めてだった…
たまに行き交う人は、俺を不審げな顔で見つめ
そのまま去って行くだけだったから。
その時、初めて自分の頬を伝う涙に気づいた。
あの時、あの瞬間…光樹に出会わなければ…俺はまだあの時を繰り返していたのかもしれない…。
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