main-短編
□webclap3
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やり始めると意外とはかどるもので、いつのまにか机の引き出しは一番上を残すのみとなった。
「さ〜、ここからはなにが飛び出しよるやろなぁ〜。」
ゆっくりと引き出しをひくと一番始めに印鑑が出てきた。
よく真島が暇を持て余しては印鑑をつく瞬間に机を揺らして嶋野の気を引こうとしてキツい拳骨をお見舞いされた。そして見せしめの如く額に押しつけられた印鑑。
印鑑はさすがに捨ててはいけないだろうと目立つ所に置き、まだまだ使えそうな朱肉は自分が使ってやろうとポケットにいれた。
次に取り出したのはまたもや写真が入っているであろう紙の袋。
「また親父のヌードやったらどないしょ〜」
そうぼやきながらも机の上に思い切り逆さにしてぶちまけた。
中から出てきたのは嶋野が溺愛するニャンコと行ったテーマパークでの写真だった。
真島に見せたことがないような優しい笑顔の嶋野は本当に仲の良い親子のように写真の中に収まっていて、何枚もある写真をゆっくりと見ていくうちにまだ嶋野が生きているのではないかと感じずにはいられない。
「ワシも一緒に行きたかったなぁ〜…」
ふいに懐かしい香りがした。
それは嶋野がいつも吸っていた葉巻の香り。
親父が戻ってきたのかと辺りを見渡すがそんなことはない、風向きが変わり窓際に置いていた葉巻のボックスから漂う香りが真島の鼻をかすめただけだった。
その香りが薄くなっていくのがまるで嶋野がもうこの世にいない事を告げているようで、真島は何とも言えない気持ちになる。
「これ、親父の墓に一緒に入れたって〜!」
元通り袋に直した写真を組員に渡した真島は嶋野組を後にした。
これ以上嶋野の思い出を見たくなかった。まだ彼の死を受け入れる事が出来そうになかったから。
自分にとって一番大切だった親父を守ることができなかった。
もうこれ以上大切なものを失いたくはない。
部屋で待つ彼女だけは絶対に失いたくない。
「真島組長っ!!」
息を切らせて追いかけてきた組員が一枚の写真を手渡した。
「親父さんの引き出しにまだ一枚残ってました。これも墓に?」
黒い指先で受け取ったソレに目線を落とした真島は、小さく鼻で笑った。
「……エエわ、これはワシが貰ろとくさかい。」
最後に出てきた一枚の写真を、真島は大切そうにポケットへしまい込み、自分が頭を務める事務所へと戻って行った。