main-短編


□webclap2
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「これなんかいいんじゃねえか?」

「どこがええんじゃ!こないな柄着たらあのアホと一緒やないか!」

「いいじゃないか、親子なんだし。きっと真島も喜ぶぞ。」

「いや〜親父!ペアルックやん照れるわぁ〜♪ってか?!ええかげんにせえよ風間!なんの為にお前連れて来た思てんねん!」





とある百貨店の紳士服売り場で場違いな怒声が響き渡る。


関西人である嶋野の華麗なノリツッコミを笑いつつ、まぁそう怒るなよ、と風間は真島のトレードマークといえる蛇柄があしらわれたシャツを元の位置へ戻した。






真島ご贔屓の堅気の彼女<通称ニャンコ>と夢の国に出掛けることになった嶋野は、一般人に見える衣裳を買う為に百貨店に出向いた。
しかしどれを手にしても極道オーラが拭いきれない為、気は進まないがまだ一般的センスのある風間を呼び出したのだった。




「しかしおまえがTPOをわきまえるとはな。」

「当たり前やろ!未来の娘と行くんやで。しかも場所が場所や、空気読まへんわけにはいかんやろが。」

「大人になったな嶋野。そんなに子猫が気に入ったのか?」

「じゃかしいんじゃ!!無駄口叩いてんとはよちゃっちゃと選べやっ!」




こんな2人に勇敢にも接客にくる店員などいるわけなく、ようやく嶋野は自らで選んだチノパンを試すために試着室へ入っていく。



「おいにーちゃん!これアカン!チャックが締まれへん!もう2サイズぐらいでかいの持って来てんかーっ?!」


「どれだけ自分がスリムだと思ってやがるんだ…なぁ?」


風間に軽口の同意を求められたところで店員が頷けるわけがない。苦笑いで誤魔化しながら嶋野へ別のパンツを渡す。


「おおきに!そやにーちゃん、プロの目線でわしに似合いそうな上の服選んでくれや!センスええおとーちゃんに見えるやつな!」

「えっ、エエッ!?」

「…なんやその顔。客に似合う服選ぶんがオドレらの仕事やろが!わかったらパッと見繕ってこいや!」

「はっ、はいぃぃ〜!」




試着室のカーテンの隙間から凄みのある顔だけを出した嶋野が今にも泣きそうな店員を捲し立てる。

脅された(本人はそんなつもりない)状態で相手に似合う服など的確に選べそうにない。失敗したらまた怒鳴られるだろうし、選ばなかったらそれはそれで怒鳴られる。

震える手で店員は服を選んでいく。


そんな姿を見ていた風間は嶋野に見つからないよう彼に指図した。













「お?にーちゃんなかなかええセンスしとるやないか!どないや?」


浮かれ気分で試着室のカーテンを勢いよく開ける嶋野。


「よ、よくお似合いですっ…」

「ほんまやで!これならニャンコも大喜びや!にーちゃんええ仕事したなぁ!どうや風間!なかなかええやろ?」


「そうだな。我ながらいいチョイスだ。」



「我ながらて…ひょっとしてこれ風間が選んだんかいな!?」



眉を寄せて嫌そうにシャツをつまむ嶋野に、風間は返事の代わりにクククと笑う。



「にーちゃん!どないなんや!?」


突然矛先を向けられ、青い顔の店員は首を縦に振る。



「照れるじゃないか嶋野。いいセンスだなんて褒められたら。」

「ち、ちゃうわっ!よう見たらやっぱりケッタイやで!極道モン丸出しのままやないか!」

「それはおまえの顔のせいだ。」



確かに試着室で1人鏡を見た時はすこぶるイケてる気がした。風間チョイスというのがどうも鳥肌ものだが、ニャンコの為ここは我慢するしかないか。



嶋野はどうにか脱ぎ捨てたい衝動を抑えると、しゃーないコレでええわ!なんぼ?、とレジに向かった。













「親父、お疲れさまです。」


組に戻るとデスクに向かって書類をしていた柏木が立ち上がり頭を下げた。
顔を上げるとなにやら嬉しそうに思い出し笑いを浮かべる風間がいる。



「親父、なにかいいことでも?」

「いや、クククッ。嶋野があんな服を着るとはな。」



訳がわからないがあまり突っ込んで聞くのもどうかと柏木は組長室に入っていく楽しげな後ろ姿を見送った。




「ああそうだ、ひとついいわすれた。」


革のソファーに腰を下ろし、胸ポケットから携帯を取り出し耳にあてる。



「ひとつ言い忘れた。下に長袖を着るのを忘れるなよ。」





いちいち言われんでもわかっとるわ!、と怒鳴った嶋野が電話をきってから慌ててタンスをひっかきまわしたのは言うまでもない。




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