main-短編


□吾朗さんた
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(この短編はクリスマス企画ということで後編はイブにupします。<時間は未定ですスイマセン>ちょっとでも妄想とリアルを近付けたくて調子に乗ってみました。お付き合い下されば嬉しいです(^-^)ムイ)























ガラガラガラ………










ツルツルに研きあげられたミレニアムタワーの床の上を少々耳障りな音が進んでいく。



ゆっくりと自動販売機の前で停まった台車。それに積んであるのは缶などのドリンク類。



自動販売機を開けて、手に持った端末とにらめっこしながら販売機の内部の在庫を調べ補充していく。


先程までのガラガラという音とは別のアルミやスチール缶が鉄に当たる音がリズミカルに響き渡った。















「あ!おはようございま〜す!!」






カツンカツンと別の音が背後から聞こえ、振り返ると彼女は元気よく挨拶をした。







「おう!なんやまた補充中かいな〜、タイミング悪いなぁ〜!」





派手なパイソンジャケットを羽織り胸元から鮮やかな刺青を覗かせた真島は、大袈裟に額に手を当てて「しまった!」とリアクションをしてみせる。








「いつもの炭酸でいいですか?」




彼女は開けていた販売機の扉を一旦閉めて端末を操作しボタンを押した。下の受取口からごとりとドリンクが音を立てて登場する。




真島は渡されたドリンクを受け取り、革手袋に包まれた指先でつまんだ500円玉をいつものように差し出すと、珍しく彼女が手を引っ込めて首を横に振った。






「真島さんいつも500円でお釣り受け取って下さらないから随分貯まってるんですよ?しばらくそのお金ありますから結構です。」






ポケットから取り出したキャラクター物の小銭入れをチャリチャリと鳴らしてみせる彼女。ほなしばらくタダで飲めるなぁ、プルトップを起こすとカシュッと良い音がした。






再び楽しそうにカラカラと音を立てて補充していく彼女の後ろ姿を見ながら、開けた炭酸飲料を一口、もう一口と喉に流し込んでいく。


動く度に揺れるひとつに束ねた髪。荒々しくそれを掴んでこちらを向かせ唇を重ねてしまえば、彼女はどんな反応をするだろうか。



真島の喉がゴクリと鳴る。

それが飲み物のせいか生唾のせいか本人すら判断できないだろう。






極道者の真島にとって、守るべき女は必要ない。嫁はおろか恋人すらいつかは邪魔になるのが目に見えている。

だからこそ毎日たった数分のこの時間を大切にしたい。


彼女に恋人がいようがどうでもいい。
ただ自分といるほんの数分を楽しんでくれていればそれでいい。








「真島さん、そんなに炭酸好きなんですか?」



「あ?ああそ〜やな〜。好きっちゅ〜か炭酸飲んで思いっきりゲップした時の快感にハマってもうてなぁ〜。」




思いがけず彼女から話しかけてきたので、なにも考えずに下品な返事をしてしまった。






「ああ〜〜、ちょっとわかります!」




ニヤリと笑いながらのまさかの同意に、真島は口に含んだ炭酸を吐き出しそうになる。




しばらくすると、子供のように笑っていた彼女は空になった箱を潰して台車に乗せ、再びガラガラと鳴らしながら真島の横を通り過ぎる。






「じゃ、真島さんお仕事がんばってくださいね!」







いつもこの台詞を聞いた後、山のように積み上げられた書類がほんの少し片付くことを真島自身も気付いていない。

























「ちゃうわ南ィ!!もっと右や!!!」



「そそそんなんゆうたかて親父!もう足場ありませんやん!無理や!」







ミレニアムタワーの中心の吹き抜け部分。真上に首をもたげて真島が見上げる先には建築のルールを無視し、簡単に作った細い足場で震える赤ジャージの南がいた。






「アホ〜何が無理じゃ!限界をさらに超えんと強ならへんのやで!孫○空もそうやってスーパーサイヤ人を超えたんや!!」


「む…無理や!あいつらはじめからそういう血やし!!」


「なにビビっとんねん!!ごちゃごちゃゆうてんとはよせなダーツでもすんで!!」





漫才のようなやり取りをしていた2人だったが、真島の発したダーツの一言で南に緊張が走った。



真島が愛用のドスを指先でつまむように持って狙いを定めている。
的はもちろん南。







ひいっ、と悲鳴をあげて見えない足場に一歩踏み出した南は無事己の限界を超え、最後の電飾を無事飾り終えた。










「後はちゃんと動くかテストするだけやなぁ!」


「けど親父、勝手にこんなことしていいんですかね?ヒルズにやるならともかく…」


「ヒルズはまだ完成しとらんやろボケェ!それに前の植木は電飾付いてんのに中にはなんもしてへんここの持ち主がアカンやろ!!むしろ俺らに御礼の一言あってもおかしないで!」







隣にいた西田を蹴っ飛ばし、セッティングした装置を弄りながら彼女がどんな顔をするか想像する。


とびきりの笑顔をみせるだろうか
それとも感動して涙をみせるだろうか。







にんまりしているうちに動作チェックは終了。


よくやったと労って貰おうとやっと高所から降りて駆け寄ってきた南をスルリとかわす。








「…ああ、そや南。」




しょぼくれていた南はその呼び声に、キター!!と細い目をさらに細めてウキウキしながら返事をした。








「…アレ、まだみえへんように幕被しとって〜。」












……南のサイヤ人になる為の高所での修行はまだまだ続く。















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