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□恋する狂犬7
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「ハルチャ〜〜〜〜ン!!」


仕事が終わり店の前で鞄の中をゴソゴソしていた私は、まさかこんな所で聞こえるはずない声の主を見て驚いた。


「真島さんっ!!もう足いいんですか?!」
「おかげさまでスッカリ回復や〜!」


真島さんはギプスをしていた方の足でピョンピョン跳ねて見せた。


「さっき肩慣らししてきたんやけど気のせいか前より良うなった気がするもんなぁ!なぁ?お前ら!」


へい、と背後にいた組員達が返事をする。
よくみれば彼らはあちこち怪我をしているし、真島さんの肩に乗せられた金属バットもあちこちへこんで血が付いていて、肩慣らし=喧嘩だとわかった私は思わず苦笑いした。



「あ、これワシの新しい携帯番号。ハルの番号もっかい教えといてぇな、全部データなくなってしもたから。」

私は新しい真島さんの番号に着信を残した。お互いがポチポチと登録する。



「今から予定なかったら飯行かへん?復帰祝いっちゅ〜ことで。」

「はい、もちろん!!」



ひさしぶりの食事に出向いた私達は、寿司吟の暖簾をくぐった。











「こないだ嶋野さんがそこ叩いた時は痛がってたのにほんと治るの早いですね。」

「せや!あの日の晩にな、ポロッとギプス外れて歩いてみたらアラ不思議!治っとったんや!」



本当に怪我していたのだろうか…
若干怪しさは振りほどけないがまぁよしとしておこう。


「せやけどハルが親父と飯行った日、ワシずっと待ってたんやで〜!せやのに直帰やなんて。」

「すいません。なんかいい感じに酔っぱらってたみたいで…。」

「…らしいのう……。で、憶えとらんのかいな?」


私はギクリとした。
完全に憶えてないわけではない、ただ、ところどころ曖昧であやふやなのは確かだ。



「…エヘヘヘ…ヘ…」


乾いた笑いを返事代わりにすると、呆れた顔をした真島さんはわざとらしく大きくため息をついた。



「いや、けど全く憶えてないわけじゃないですよ?」

「…まあええわ、相手が親父やし。そこらへんの男やったら許さんけどな!」
「ハイ…胆に命じておきます……ってちょっと待って!まるで彼氏みたいな口振りじゃないですか!!」



寿司を口の中に放りこんだ真島さんはニヤニヤして私を見る。
きっとお見舞いに行ったあの日のことを言いたいのだろう。

避けてもいいって言われたのに体が動かなかった私。
あの時私は、キスを受け入れようとしていた。
近づく真島さんの顔、息づかい、あの情景を思い出すだけで体が熱くなる。





「今、思い出したやろ…?」
「エッ!!ナニガッ、、何をですっ!?」



人の気持ちを考えたりしなさそうなわりに勘だけは鋭い真島さんにヒヤリとしながら、私は必死にはぐらかした。

それからしばらくの間続いた「続きはいつやねん?」的な攻めを華麗にスルーしていたら、静かに戸が開き、組員の1人が遠慮がちに真島さんに話しかけた。



「お、親父、すんません。」

「なんやねん西田ァ!オマエよっぽどはよ死にたいんかいな!」



ひさしぶりのデートを邪魔された真島さんは椅子に座ったままで西田さんを見上げた。
よほど恐ろしい目で睨まれたのか、一瞬体が下がりかけたがなんとか持ちこたえた西田さんは小さな声で真島さんに言った。


「組のモンがハジキでやられました。今他のモンが…」

「ハァ?弾かれたやと?!なんでそないどんくさいヤツがワシんとこおんねん!」



音量調節の効かない真島さんの大きな声と内容に、一瞬店内が静まり返る。


「親父…ここではちょっと……」

西田さんは私を1人にさせることを申し訳なさそうに頭を下げてから無理矢理真島さんを外へ連れ出した。



真島さんが出ていった後もしばらく私に視線が集中していたけれど、気にしていても仕方ない。
私は目の前に置かれたお寿司を堪能することにした。


「ん〜〜!おいし〜〜〜!」


普段回転寿司しか食べない私にとって、目の前で大将が握ってくれるお寿司はおいしさが二倍、いや五倍増しくらいに感じる。




至福のひとときを満喫していると、鞄の中で携帯が振動していることに気づいた。

取り出して液晶を見たが、電話帳に登録されてない見知らぬ番号が表示されている。



知らない番号にでるのはあまり好きではないが、しつこく震えっぱなしの携帯を不憫に思い、渋々通話ボタンを押した。








『ニャンコか?』




ハ?????



もしもし、と言うより先に大きな声が「ニャンコ」と言った…私の聞き間違いでなければ……



「え、えーと…どちら様で?」

『その声はニャンコやな!番号おうててよかったわ!』




ニャンコとは私のことだったのね………。




しかし私のことをそんなふうに呼ぶ人なんて…ん?……まてよ?この凄みのある関西弁…




!!!!嶋野さんっ!!!!




『こないだあのテーマパークのレストラン行きたいゆうてたやろ?予約取れたんやけど行くか?』



まずどうして私がニャンコなのか、次にどうして電話番号を知っているのか、聞きたいことは山ほどあるけど、とりあえずこのテーマパークの件に関しては幸いうっすらそんな事を言ってた記憶がある。

そしてそのレストランは確かに行きたい!食事をしながらショーを観れるなんて素晴らしすぎる!


ただ、、、問題は"誰と"行くのか、だ。

私は失礼を承知で聞いてみた。




『なに寝ぼけてんねん!わしとに決まっとるやろが!』





デスヨネ〜〜!





私の隣で極道丸出しの嶋野さんが笑う。どう考えても夢の国で彼は浮く、浮きまくる。そもそも入場さえできるか怪しい…



「あの〜嶋野さん?、私の勝手な意見なんですけどこないだ着てらした紫のスーツではちょっと……。」

『アホ!!そんなんわかっとるわ!心配せんでもTPOっちゅーんはわきまえとる!ほな夕方からでもかまへんか?』



まさか嶋野さんの口からTPOだなんて…ますます不安だ。
けどそんな私の不安をよそに、勝手に行くという程で話が進みだした。





「ハルっ!!すまんけどっ…って電話中かいな!」


ガラッと勢いよく扉が開いて真島さんが戻ってきた。


『夕方からでもまあまあ楽しめるやろ?ええな?』

「あんなハル、悪いんやけど急に仕事入ってしもた!」

『おいニャンコ?聞いてんのか?』


2人同時に似たような口調で話されては全く頭にはいってこない。
仕方なく急いでいる真島さんの方を優先し、嶋野さんには待ってもらうことにした。



「聞いとったやろ?組のモンが弾かれてな。そこ潰しにいかなあかんようなった!」


弾く、潰す、の単語に再び店内が静まり返る。


「私なら気にせず行ってください。気をつけてくださいね。」

「ほんま堪忍やで!金はつけといてもらうから好きなだけ食べるんやで?ほなワシ行くわっ!」

「ぅわっ!?!」



いきなり頭をガシッと掴まれたかと思うと、私のおでこにブチューッとキスをした真島さんはニヤニヤしながら店を出ていった。


それでなくても注目されていたのにさらにそんなことをされて、私の恥ずかしさはどう責任とってくれる?!


吹き出る汗を拭いながら視線が和らぐのをただひたすら待っていると、大将が忘れていた携帯の存在を教えてくれた。




「すっ、すいませんお待たせして…」


慌てて電話のむこうの嶋野さんに呼び掛ける。


『なんや真島とおったんかいな。組のモン弾かれたやて?アイツの組もまだまだやなぁー!』


どうやら会話は全て筒抜けだったようで、おでこにチューさえも観られてたのではないかと焦る。



『ほんでどうするんや?昼間っから行きたいんやったらどうにかできん事もないけど…』


焦っていっぱいいっぱいの頭で考える。昼間からなんて、それは即ち丸一日嶋野さんとデートではないか!




「夕方でオッケーですっ!!」




私はとびきりハッキリと返事を返した。



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