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□恋する狂犬6
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こないだの休みは少し足を伸ばして横浜まで行ってきた。
今日はお気に入りの雑貨屋を巡って、全く買う予定はなかったけどマグカップをひとつ購入した。衝動買いとはいえ、一目惚れだったから良い買い物だったと思う。
お洒落なカフェでお一人様ランチを満喫。
ああ!なんて自由な時間だろう!
ここんとこずっと休日は真島さんに連れ回されてたからなぁ。
今日は男友達からお誘いがあったけど、バッタリ真島さんと鉢合わせたらなんとなく面倒なことになりそうなので断った。
カフェを出て特にあてもなくブラブラとショッピングを楽しむ。
すれ違う人の目も、店員の目も気にならない。
数ヵ月前の真島さんと仲良くなる前の生活に戻っただけ…
……のはずなのに、なにか物足りないのはなんでだろう………。
なんとなく1人でいることが寂しくなってきて、いつのまにか私は神室町に戻っていた。
アルプスでストロベリーパフェをオーダーし、運ばれてきたそれを見て思い出す。
真島さんが了承も得ず相席してきたあげく、最後用に残してあったイチゴを取られたこと。
なんとなく気になって、私はまた無意識に最後に、とよけていた大きなイチゴを食べてしまおうとスプーンに乗せた。
だけどやっぱり最後に食べたくて再び器に戻す。
また取られたらその時はその時だ。今はもう前回のようなよそよそしい関係じゃないし、なんなら弁償して!とでも言える。
私はアイスクリームを一口食べてから、鞄からすっかりおとなしくなった携帯を取り出した。手にするたびに着信や受信メールを知らせるライトが点滅していたのに、今では壊れてるのではないかと心配になるほど静かだ。
ボタンを押し、着信履歴を見る。
「…はぁ………。」
最後に着信があった日からかれこれもう1週間、真島さんから連絡がない。
「あれだけ毎日毎日電話やメールで好きやで〜って言ってたくせに…。」
口説く宣言を受けてから、真島さんはまるで繋いでいた鎖が外れたかのようにガンガンおしてくるようになった。それだけアピールしてきてたくせに連絡がピタリと止むとさすがにこちらも気になってしまう。
一日二日は連絡がないことに開放感があった。
三日目あたりからマメに携帯を気にするようになった。
四日目五日目になると、まさか心変わり?となんとも言えない気分になった。
おとついあたりからだんだん腹がたってきた。なんだか遊ばれていたような気持ちにもなる。
そして真島さんは私の事が好きだということに自惚れていたことに気付いてしまった。
よく考えてみたらすぐにわかることだった。店に連れて来ていた女性達は皆、モデルのように綺麗だった。
それに比べて…まぁ自分は平均的な容姿。
真島さんが本気になるわけがない。
「…きっと飽きたんだ……。」
ふいに残念そうな台詞を吐いてしまった。慌てて周りを見回したが真島さんと関わりがありそうな人はいなくて安心する。
再び手元に視線を落とすと、液晶画面には、1週間前の着信履歴、【真島さん】という文字と番号が表示されている。
私はリダイヤルを押した。
「んも〜!ハルチャン待っとったで〜〜!!」
1週間ぶりに聞く暢気な大きな声を想像し、それが実際に耳に届くのを待つ。
けれど聞こえてきたのは、
「おかけになった電話番号は電波の届かない……」
の女性のアナウンスだった。
本当に飽きられちゃったんだ
現実を受け入れようとすればするほど心が締め付けられる。
正直なところ、きっと私は真島さんのこと好きになってた。でも私と真島さんは住む世界が違う、うまくいきっこないし辛いだけだ。
そう思ってた。そう思ってるくせに、心のどこかで真島さんに言ったら「そんなんどうにでもなるわ!!」と、強引に私を説得してくれると自惚れてた。
遅かったんだ…私がハッキリしなかったから…
目の前のパフェの器がぼやけて見えるのは、涙が溜まってるから。
私はそれが零れないよう上を向いて大きく瞬きをしてから店を出た。