main-連載
□恋する狂犬4
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「見つけたで〜〜!桐生チャ〜ン!」
正直なところ、今真島に捕まっているほどの暇はない。由美やら美月を探さなきゃならないし、やるべきことが山ほどある。
後日面倒なことになるのを承知で気付かなかったことにしてやり過ごすか…
そう悩んでいる間に気配を消して近づいた真島は、蛇のように桐生の体にまとわりついていた。
判断が遅かった……
諦めた桐生は真島に肩をがっしりと抱かれながらアルプスへ向かうこととなった。
「…で?。トイレでシメた男は?まさか殺したりしてないでしょうね?」
「まさかまさか〜!ちぃと気ィ失わしただけや!」
顔の前でハエを払うように手のひらを動かしている。
まぁ正直なのが取り柄な真島のことだ。殺していないのは確かだろう。
「ほんでな、家まで送るわって言うたらハルチャン嬉しそうにワシの右腕にからまってきたんや〜!」
自慢げに話しているが、それはバッティングセンターの自動ドアをくぐるまでの少しの間だけだったが…。
車には乗りたくないというハルの隣に並び夜道を家にむけて歩く。
「ようさん酒飲んだんか?」
「う〜ん、わかんない。私、お酒好きだけど弱いんですよね〜。」
他愛もない会話をしながら横を見ると、ついさっきまで隣にいたはずのハルが忽然と姿を消していた。
ハルは真島にとって死角ではない右側にいたはず、なのにいなくなった事に気づかないなんて、いかに自分が柄にもなく舞い上がっていたのかが浮き彫りになって気恥ずかしい。
慌てて振りかえると、ちいさな塊のようにちょこんとしゃがんだハルが数メートル後ろにおりホッとする。
どないしたんや?腹でも痛いんか?、と近寄って尋ねる。
「もー歩けないっ!!真島さん速いんだもん!」
ハルはぷくっと両頬を膨らませて真島を見上げている。
いくら並んで歩いていても、長身の真島と彼女では一歩の幅が違う。徐々に差は開いてしまうものだ。真島は気づかず普通に歩いていたが、ハルは次第に開いた距離を埋めるため早歩きをしていたのだ。
「そこは兄さんがちゃんと彼女に合わせてやるべきところでしょう?」
「だって!!そんなんゆうたかてワシ、今まで人に合わすなんてしたことあらへんねんもん!気づくわけないやん!」
桐生に軽く説教をされ、ふてくされた顔をする。氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーをずずっと飲み干し、ウェイトレスにおかわり!!とグラスを上げて合図した。
「ほんでな、しゃがんだハルチャン、何て言うたと思う?」
ずいっ、と2人の間にあるテーブルに身を乗り出して桐生との距離を縮めてニタリとした笑みを浮かべる。
「…さぁ…。」
女ならさておき、男の顔が息のかかる程の至近距離にあるというのはどうしてこう不快なのか。
不快感を露にしながら発した桐生の素っ気ない返事に、真島は呆れた顔をして前のめりだった体を正反対にイスの背もたれへ預けた。
「もうええわ桐生チャン!そないにワシの話に興味ないんやったら嬢チャンに聞いてもらうさかい…」
「いやっ!!!聞きたい!!聞かせてください真島の兄さんっ!!頼むッ!!」
大慌てで無理矢理興味津々の顔を作った桐生は、どうやら真島と遥を会わせたくないらしい。
そんなおもいを知ってか知らないでか、真島は右の眉毛を持ち上げてしばしそのぎこちない桐生の顔を眺めた後、しゃ〜ないなぁ、と再びテーブルに両肘をついて乗り出す。
「あのな………、
『真島さんおんぶ!』やて!!!!」
キャーッ!!と年頃の娘のように赤らめた顔を両手で覆ってはしゃぐ真島。
その姿を狂犬モードよりも恐ろしいと、桐生は覚書に書き足した。