main-連載


□恋する狂犬3
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「いや〜!ちゃんと来てくれてよかったで〜!」



ホテル街へ曲がったところにあるバッティングセンター。
コンクリートの床に胡座をかいて座る真島の正面で不機嫌な顔をした桐生が小さな女の子を抱えて睨み付けている。



「真島の兄さん、二度とこんな真似はやめてくれ。」

「もうせえへんて桐生チャン、そない目くじら立てんと。お嬢チャンも堪忍な!」


桐生の背後から覗いていた少女は、真島が両手を合わせたパチンという音に驚き、再び背後に隠れてしまった。


「せやけど桐生チャンに隠し子がおったなんてなぁ〜。」

「俺の子じゃない。遥は由美の子だ。」

「由美っ?由美てあの桐生チャンが昔っから好いとったあの由美かいな?じゃあ…」


オトンは誰やねん、と言いそうになったがさすがにデリカシーがないなと真島は出かかった言葉を飲み込んだ。


「…父親はわからない。」

言いかけた言葉を汲み取ったのか、桐生は真島とは正反対の低音の落ち着いた声でボソリと答えてから、同じようにコンクリートの上に胡座をかいた。




「…ところで何か用があったんじゃないんですか?兄さん。」


そうや!と少し大袈裟に手を叩くと真島はハルの話をした。
















「………それで?」



散々熱く語った真島は、まるでオチを催促するような桐生の言葉にイラッとした。


「せやから!ワシのこのモヤッとしてキュンとなる気持ちは何やねんって事や!!」


あの日からハルを思い出すことが増え、組員からハルの話が出る度に気になって気になって、時にはイライラもする。

ハルに会うために何度店に足を運んだだろう、そして何着ドレスを購入し、仕方なくホステスにプレゼントしただろう。
頃合いを見て懲りずに誘ってもみたがやはり毎回返事はNOで、その度心がチクッと痛む。
あの時のハルの拳の温度は、どれだけ人を殴っても真島の手のひらから消えることはなかった。


「その舎弟に負けるのが嫌なんじゃないですか?自分の知らないことを知ってるところとか…。」


まぁ桐生が言うこともあながち間違ってはいない。しかし真島はもっとはっきりとした答えが欲しかった。



「……おじさん、ハルって人のこと好きなんだよ。」



可愛らしい声の思いがけない参加者に、2人は目を丸くした。
声の方向へ視線を向ければ、桐生の背後に隠れていたはずの遥がいつの間にか2人の間に座っており真島をじっと見上げていた。


「その組員さんと仲良くしてるのが嫌なんでしょ?」
「せや!ごっつうムカつくわ。」


「もし組員さんとハルさんが恋人同士になったら?」
「しばきまわすな。なんでワシやのうてアイツやねん、ワシの方がずっとハルチャンのことす……!!」


「ね、好きなんだよ。」



自分の気持ちに気付き、電流が走っている真島の正面にいる桐生は、開いた口が塞がらない。小学校低学年という幼い子供に惚れた腫れたの色恋沙汰が分かるとは。あげく大の大人に向かってアドバイスなどしてしまうなんて。


「すっ…好きぃ?!そ、そんなん今までも好きやった女くらいおったで!けどこんな気持ちにならんかった!」

「…俺も知らないくらい若い頃は兄さんも恋愛してたかも知れないが、俺の知ってる限りではあれは恋愛とは言えないと思うが…」



両目があった頃の恋愛なんてすでに覚えちゃいない。
真島は思い出せる限りの記憶を辿ってはみたものの、女に困りはしなかったがどれも恋愛と呼べるものではない気がする。
性欲を満たす為に口説き、事が済めば決まって女は勝手に彼女面をする。めんどくさいのでそのまま放っておけば、気付けば何人もの'自称・真島の女'がいた。もちろん修羅場になるが当の本人は付き合った記憶などなくバッサリ全員とおさらばしておしまい…の繰返し。性欲が満たされればそれでよかった。女よりも極道という歪んだ世界のほうがなにより新鮮で居心地が良かった。


「すっ…好き…か。そないにはっきり言われたらさすがのワシでも気付いたで!せや!好きや!好きなんや!」


モヤモヤが霧が晴れたようにスッキリした真島は勢いよく立ち上がると、自作の変なメロディに乗せて歌い出した。


「ハルチャンが好〜き〜♪ハルチャンが〜〜♪♪」


一緒になって手拍子する遥。

案外この2人はいいコンビになるかもしれない。




「ねえ、真島のおじさん、ハルさんってどんな人なの?」


その質問に待ってましたとばかりに真島がのろけだす。自分自身で好きだと認めた途端この有り様、もしこの恋が実ったら毎日毎日のろけのオンパレードになるだろうと予想がつく。


「そうや!どうせやったら桐生チャンと嬢チャンにハルチャン紹介するわ!行くで!」




返事も聞かずに素早く立ち上がった真島は軽い足取りで進んでいく。その後を2人は小走りで追いかけた。




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