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□恋する狂犬2
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「おはようございます!」
昨日無理矢理送られたせいで徒歩通勤だなんて…
ハルは手のひらで口元を隠しながら大きなあくびをした。
「おはようございます!!」
さすがに二度も挨拶されると誰に言ってるのか気になるものだ。朝に弱く、まだスイッチが入ってないハルは渋々振り返り不機嫌な顔をしながら声の主を探す。
すると1人の男と目があった。
ぺこりと会釈したその男は、確か昨日真島に殴られていた組員だ。
「あぁ昨日の…おはようございます。」
返事をかえす。笑顔を浮かべて駆け寄ってきた組員は目の前で立ち止まると、綺麗に畳まれたハンドタオルと缶コーヒーを差し出した。
「返さなくてもよかったのに。わざわざありがとうございます。」
昨日、ハルが車を降りた際、彼が地面で具合悪そうにうずくまっていた。その時真島に気付かれないよう差し出したハンドタオルだ。
それをわざわざ洗濯して返却にくるなんてヤクザ稼業のわりになんとも律儀な男だ。
缶コーヒーはお礼だろう。
じゃ、と受け取ったものを鞄に入れ、軽く会釈をして立ち去ろうとした。
「店まで送ります!」
「え?…うーん…(そりゃ送ってもらえたら楽だけど…)」
真島の顔は朝から見たくないな、なんて思いながら返事に困っていると、ハルのはっきりしない態度にピンときた組員が真島は乗っていないことを言いにくそうに申告してきた。
真島がいないとなると渋る理由はない。ハルは送ってもらうことに決め車に乗り込んだ。
「具合どうですか?」
「もう平気です、あんなの慣れっこですから!」
車内で聞いたのは、しつけと称して金属バットで殴られるのは日常茶飯事だということ、けどそれは愛情表現だと自分等は受け取っている、ということ。
一見無茶苦茶に見える真島だが、こうも組員が尊敬し慕っているのなら、自分にはわからないが良いところもあるのかもしれない。
「ありがとうございました。助かりました。」
自分なんかに優しくしてくれたハルに好意を抱いていた彼は、近々飲みに行かないかと誘った。
歳も近く話しやすいし、友達になってもいいなと思ったハルは、"ぜひ"、と了解し、お互いの連絡先を交換した。