main-連載
□恋する狂犬U-17
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「遥ちゃん!!」
「ハルさん!!!」
ひさしぶりの再会を遥は心待ちにしていたようでハルの顔を見るなり駆け寄ってきた。
ぎゅっと腰回りに抱きつく彼女に心がじんわりと温かくなる。
「桐生さん退院おめでとうございます!」
「ああ、ありがとうなハル。まあ大した怪我じゃなかったんだがな。」
「なにゆうてるの?俺はもう動けないっていってたの誰?!」
あの日あの屋上で二人しか知らない会話。それだけで桐生と狭山が特別な関係なのがよくわかる。
「おじさんがね、私がいるのに普通の席じゃ遅くまでいられないからって個室を予約してくれたの。」
「そうなんだ!じゃあたくさんおしゃべりできるね!」
「うん!あれ?真島のおじさんは?一緒じゃないの?」
遥!!!と言わんばかりに桐生がこちらを向いた。
遥は真島とハルの関係がとっくに終わっていることを知らない。気まずい空気にならないよう桐生が慌てたが、そんな彼の心配は空振りでハルは特に気にすることなく返事をかえす。
「うん、まだ仕事してるよ。」
「そうなんだ、はやく終わればいいのに……。」
料理の注文は遥に任せて大人3人がビールで乾杯をする。それに参加できなかった彼女がオレンジジュースを片手に膨れっ面を見せた。
「あ……」
「遥、すまない……」
彼女が着席するのを待ちもう一度乾杯をする。
「ちょい待ってぇな桐生チャン!!」
勢いよく個室のドアが開けられ、ヘルメット姿で息を切らせた真島がヨロヨロと瓶ごとビールを掴む。
「はやかったな真島の兄さん。」
「そらそうや!桐生チャンからの呼び出しならともかくハルからもお誘いあったのにちんたら仕事なんかしてられへんで!!……では改めまして!ワシとハルの復縁にカンパーーーイ!!」
「「「え???」」」
ぐびぐびと瓶ビールを流し込む真島を3人が目を丸くして見つめる。
「真島さん!今日は桐生さんのっ……」
「ああせやった退院パーティーやった!おめでとうさん!これでまたワシとやりあえるなぁ〜!!」
「兄さんいつのまにハルと……」
「真島のおじさんよかったね!」
「やっぱり私この人嫌いや!」
いつのまにやら真島の復縁祝いになってしまった室内に続々と料理が運ばれてくる。5人はおいしい料理に舌鼓をうち、アルコールはもどんどんすすむ。
「真島のおじさん、おじさんを助けてくれてありがとう。」
「エエってエエって嬢チャン!そのおかげでハルがワシんとこに戻ってきたんやから!な?!」
「え?私よく蒼天掘ぶらぶらしてましたよ!もしかしたら何度かすれ違ってますよねきっと!」
「そんなの犯罪でもしてないと覚えてないわ!」
ごちゃごちゃの会話はいつの間にか復縁した二人のネタになる。
「ハル、本当に兄さんと??でもお前……」
「なんやねん桐生チャン!!細かいことなんぞどうでもエエ!ハルがワシを選んだんや、ぶり返すような事言うようなら桐生チャンといえどただじゃすまへんで?」
「正直こんな男のどこがええんかわからへんわ私。」
「ワシの良さがわからんやなんてネエチャンえらい不憫やのぅ〜。」
そう言いながら真島は手招きしてハルを隣へ座らせた。
ずしりと重みのある腕がハルの肩にまわされる。
「どや?桐生チャン、やっぱりワシの隣にはハルがしっくりくると思わんか?」
「うん!お似合いだよ真島のおじさん!」
「せやろぉ?せやろぉ?!嬢チャンはほんまエエ子やなぁ!!」
返答に詰まった桐生を助けるように遥が二人を茶化す。気分を良くした真島はぐりぐりと遥の頭を撫で回し、いつのまにかハルと遥、両手に花と化していた。
アルコールも入り、楽しい時間はどんどんと過ぎていき、いつの間にか日付が変わっていく。
さすがの遥も小学生、コクリコクリと船をこぎだしていた。
そっと椅子に寝かせた真島の背後から、ハルが持ってきていたストールを遥にかける。
二人がいることで安心したのか桐生と狭山はいつのまにか散歩にでかけていた。
「桐生チャンもやっぱり男やのう〜。こない可愛い嬢チャン置いて……。」
「いいじゃないですか、私達がいるんだし。」
「けどそんなんワシかてハルと夜中の散歩したいっちゅ〜ねん。」
「いつでもできるじゃないですか。」
「ほな今日帰りお散歩する?」
「いいですよ?でも真島さん明日もお仕事じゃ……。」
明日の予定を思い出したのか一瞬真島の眉毛が歪んだ。予定もなにも現在進行形で工事を進めていたことを思い出す。こうして酒を飲みハルと過ごしている今も作業員達は働き続けている。
「ふふっ。真島さんの都合が良いときに誘ってください?私いつでも大丈夫なんで。」
「う〜ん……かんにんやで。さすがにこれ以上あいつらほったらかしてイチャイチャしてられんからなぁ〜。」
しゃがんだ真島が顔を横に向けると腰を屈めて遥を見ていたハルの顔が思いの外近くで微笑んでいた。
やっともう一度手に入れることができたハル。その横顔に思わず手を伸ばす。
ふいに後頭部に優しく添えられた革に包まれた掌。絡み合った視線に、ハルの心が無意識に高鳴る。
キスするかも
少しずつ縮まる距離にハルはそっと目を閉じた。
「……お、白髪発見。ってうおっ?!?」
思わぬ台詞に目を開いたハルはそのまま真島を勢いよく突き飛ばした。
「あ〜びっくりした!そない突き飛ばさんでもええやんか〜。」
「なんでこんな時に白髪?!」
「そんなんゆうたかてしゃ〜ないやん見つけてしもたんやから。」
「もうっ!!!見つけたんなら抜いてくださいよ!!」
「え〜抜いたらハゲてしまわん?見つけるたびに抜いてたら親父みたいなってまうで〜!」
そう言いながら近寄ってきた真島はプツリとその白髪を抜いてハルの目の前でゆらゆらと見せつけた。
「ほな手に入れたこの髪でおまじないでもしようかのぅ〜。」
「真島さんが言うと黒魔術っぽいからやめてください!!はやくそんなの捨てて!」
「あかん〜!これはワシのモンや!……って桐生チャン戻ってきたんかいな!ほなワシ仕事戻るわ!」
二人っきりの散歩を終え戻ってきた二人と入れ替わるように真島が個室の出口へと向かう。
「桐生チャン、きっちりハルのこと家まで送り届けてや〜!」
「ああ。」
「ほなハル、また連絡する〜。気ぃつけて帰るんやで〜。」
あの距離でキスしなかったことが引っかかったままのハルは、去っていく真島の後ろ姿を見ながらまたひとつ心のスペースを真島が奪っていったことを確信した。