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□恋する狂犬U-17
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「おなかすいた……」


むくりとベッドから体を起こしキッチンへ行く。冷蔵庫を開け飲みかけのミネラルウォーターを手に取り蓋を開けると一気に喉に流し込んだ。

乾燥した体に水分が染み渡っていくのを感じながら冷蔵庫内を物色するが、どうやらこれといって腹の足しになるような料理は作れそうにない。

「……コンビニいこ。」


部屋着の上に厚手のストールを羽織り家を出る。エレベーターで降りてオートロックの自動ドアをくぐる。


「お〜やっとでてきたか!おはようさ〜ん!!」


顔を上げると朝からハイテンションな真島が立っていた。


「え……私なにか約束……」

「いんや、なんやええ天気やったからハルの顔見てから仕事行こう思てなぁ〜!」


言われるがまま空を見上げると、確かに雲ひとつない青空。冬の冷たい空気がさらに空を綺麗に見せる。


「なんや?どっか行くんか?」

「あ、ちょっとコンビニに……」

「さよか!ほないこか!」


ハルの肩に手をまわし寄り添うように抱き寄せる。目をぱちくりさせながらハルは真島を見上げた。

「ン?なんや??」

「えっと……朝から元気ですね。」


この手は何?

そう聞きたいのは山々だが朝から機嫌を損ねられてもかなわない。それにまあ嫌という訳でもないので、ハルはそのまま真島にくっついたままコンビニへ向かう。


「ワシここで煙草吸ってるわ。ゆっくり選らんどいで。」


寝起きのぼんやりした頭で一生懸命昨日起きた出来事を思い出す。酔っていたせいもありしっかりと覚えてはいないけれどまとめてしまえば真島とやり直すことになった事。
たとえそこに気持ちはなくてもいい、穴埋めでもいいから利用すればいい。そう言われ半ば強引にそうなった今、真島とハルは恋人だ。

考えたいことはたくさんあるが今はそんな時間などない。慌ててサンドイッチと飲み物をつかみレジへと急ぐ。


「お待たせしました。」

「ん〜。なに買うたん?」

「サンドイッチと……あ、これ真島さんに。」


差し出された飲むヨーグルトを真島は珍しい物でも見るようにじっと見つめている。

「あ、もしかして嫌いでした??」

「いや〜こんなん飲むのいつぶりやろなぁおもて!おおきに!」


ブスリとストローを差し勢いよく吸い込む。真空になった紙パックが真島が口を離すと同時にズゴッと下品な音を立てる。

「今日はなにすんのん??」

「とにかく働くとこを決めないと。」

「ええやん別に働かんでも。ハルひとりくらいワシが……」

ジロリと見上げたハルの視線に気付き真島が言葉を止める。

「おおスマンスマン、ハルは働きモンやから働きたいんやったなぁ!せやけど焦ってしょーもないとこに勤めるのだけややめや?時間かかってもええ、良い職場見つけ。」

「そうですね、長く続けれるところをみつけたいな。」


話ながらゆっくりとマンションへと来た道を戻る。いつの間にか飲み干した紙パックを開いてぺったんこにしていた真島を見てハルは笑う。

「真島さんがそんなことするなんてなんか可笑しい!」

「アホ!こないしたらゴミ箱にようさん入るやろ?今の仕事しだしてよう身に染みてわかってん!廃棄物廃棄物できるだけコンパクトに!や!……お、迎えが来とるな。」


マンションの前に停車しているトラックには真島建設とペイントしてある。運転席から一人の作業員が降りてくるとペコリと頭を下げた。


「ほなハル、お仕事行ってくるわ〜!」


ぐしゃぐしゃと頭を撫でると後ろ手に掌を振りながら真島はトラックに向かって行く。

大きなクラクションを一度鳴らし、目の前から遠ざかっていく。それを見て少しだけ寂しさが押し寄せる。

「いくらなんでも都合良すぎでしょ私。」

部屋に戻り、買ってきたサンドイッチとオレンジジュースをテーブルに起きながら自分を責める。
好きだ好きだと言っておいて離れてしまえば別の近くにいてくれる人に移る、なんて自分は最低の尻軽女なんだ。

正直今、ハルの頭の中には真島がいることが増えた。

おばあちゃんがいた頃、あの頃はそうでもなかったのに亡くなってからは当時の恋人にべったりだった。何をされても許し、彼に依存した。その彼と距離ができだした頃、自分の隣には真島がいた。そして好意を持たれていることに気付きいつのまにか自分の心は真島でいっぱいになり交際が始まった。
けれど真島の依存と嫉妬が激し過ぎて世の中から取り残されそうになって怖くなり、逃げるように真島の元を去った。
ひとりぼっちになった自分と偶然なのか運命なのか再会した龍司。懐かしさも後押しし、あっというまに龍司に依存した。

そして今、龍司は自らの強さの為自分の元を去り、再びひとりぼっちになった。
一度は関係を持った仲の真島がハルの中で大きくなるのは簡単なことだった。


「あ〜もう!!!ほんと自分が嫌!嫌い!!」


流されやすくて惚れやすい。自分がこんなにも軽い女だったと実感して死にたくなる。



ハルは携帯を取り出すと深呼吸をしてから通話ボタンを押した。











「別にええんとちがう??」



罵声を浴びせられるの覚悟して狭山に思いの丈をぶちまけたハルは、まさかの返事にきょとんとした。

「どうしたん?まさか私が怒ってめちゃくちゃ言うとでも思ってたん?」

「は……はい」


ハルの目の前に置かれた手の付けていないショートケーキの苺を狭山は指先でひょいと摘まむと口のなかへいれた。

「側におらんようになったらそうなってしまう人もいてる。側にいてくれるからこそ好きってのもあるじゃない。そんなに死ななあかんほど悪い事じゃないと思うよ?」

「……でも本気で好きなの?て思いません??」

「そりゃそう思う人もおるやろね。けど好きって気持ちは人それぞれで比べれるもんと違う。そう言うんやったら郷田龍司はあんたのこと置いてったけど本気で好きじゃなかったって事??」

「……そうは思いたくない……。」

「でしょ?じゃあハルちゃんも堕ちるのが早いだけでちゃんと気持ちあるってことちゃうん?ほら、食べへんのやったら私もらうよ?」


それは困る!と言わんばかりにハルはお皿を自分の元へ引き寄せた。
笑いながら狭山が煙草に火をつける。


「いくら好きでも会えなくなると寂しくて耐えられへん。結果、別の人に目がいってしまったり喧嘩したりするんや。居場所だけじゃなく心の距離まで離れてしまう。」

「だから桐生さんと付き合わないの?」


聞いてはいけないことだったのか、狭山が盛大にむせる。


「い、いきなりこっちに話ふらんといて!」

「でも……」

「そうや、今日一馬が退院する。一緒にお祝いがてら食事でもどう?遥ちゃんっていう女の子もおるんよ。」

「遥ちゃん?!行く!行きます!!」



夕方、ハルは教えられていたミレニアムタワーの飲食店へと足を運ぶことになった。





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