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□恋する狂犬U-17
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ご機嫌に足音を響かせながら事務所までの道のりを歩く。
多少強引やったがなんとかハルの新しい家もわかった。ニイチャンとやらがゆくゆくは一緒に住むかもしれんっちゅ〜いらん情報と共に。

ニイチャンであり元彼であり元フィアンセやったらしい郷田龍司は今どこに姿を眩ましたんかわからへん。ポコッとでてきよる前にハルをモノにせんと今度はワシと龍司との戦いで神室町が賑やかになってまう。

いろんなことがいっぺんに押し寄せて弱っとるハル。そこにつけこんで手に入れるのはたぶん簡単や。ちぃとズルい気もするけどここは短期戦に持ち込むのがベストな選択やとおもう。
あとはどのタイミングで畳み掛けるか……それだけや。





数日後、なんも考えんと夜の散歩を楽しんでたその時、突然それは訪れたんや。



「ハル??」


ミレニアムタワー前のベンチ、すぐにでも悪い男に持ち帰られそうな薄着で横たわるオネエチャンがひとり。
案の定ハイエナのような男連中が取り囲んではギラついた目でそのうまそうなエサを見てた。


「お姉さ〜ん、そんな格好でいたら風邪ひくよ??」


着ていたウィンドブレーカーを脱ぎ横たわるハルにかける。


「ん〜?お布団??」


うっすらと目を開けたハルはそのウィンドブレーカーに鼻まで埋めて小さく丸くなった。おかげでスリットから白い柔らかそうな太腿がさらに顔を出した。

「お布団??布団にはいりたいんだ?だったら俺らと一緒にさぁ……」


言い終わる前にそいつはワシの長〜い足の蹴りを食らって見事に頭から植木に突っ込む。まわりにいたハイエナ共がワシを見て顔面の色を変えた。


「すまんのう、こいつワシの知り合いや。」

「はっはいぃぃ!!すいませんでしたぁ!!」


蜘蛛の子を散らすように逃げていったのを確認してから、ハルが幸せそうに顔を埋めているお布団をひっぺがす。


「さっさむ!!!」

「当たり前じゃアホ!どこで寝とんねん!!」


パイソン柄のジャケットを脱ぎ起こしたハルの肩にかける。


「……??真島さんの匂いだ〜。」

首を傾げてジャケットに鼻を近付けスンスンと匂いを嗅がれ、ワシはなんかちょっと恥ずかしなってきた。

「と、とりあえずここ寒いから中入るで!ほれしっかり立ちぃ!」


肩を抱いてとりあえずミレニアムタワーの中へ。自動ドアを抜けた瞬間、暖かい空間がワシらを包む。

ベンチへハルを座らせるとワシは両手を擦り合わせて冷えを和らげてから、その両手のひらでハルのほっぺたをパチンと挟んだ。


「……いひゃい……」

アッチョンブリケな顔でワシを見る。

「アホ!こないな格好であんなとこで寝るアホがおるか!!」

「だって……裏で違うサービスするなんて面接で聞いてなかったんだもん。」


どうやら生活の為に手っ取り早く水商売で稼ごうとしたところ、そこはただの飲み屋やなくて風俗サービスもしてる違法の店やったらしい。衣装のまま逃げ出したものの酔いと寒さであの場所でダウンしとったようや。

「とりあえずその店潰しとかなあかんのぅ……柏木にでもゆうとくか。……ピッピッ…………あ、もしもし柏木ィ?ワシや、真島建設代表取締役の真島吾朗さんや〜!……ってあっ!!切るなやボケェ!!」


名乗るなり通話を切りよった柏木に腹を立てながらそういやこの上にいとることに気付いてエレベーターのほうへ顔を向けた。するとポケットに突っ込んだばかりの携帯がワシを呼ぶ。


「なんやねん柏木〜、あいかわらずツンデレやのう!え?いや、冷やかしとちゃう、オマエんとこのシマの○○っちゅ〜店なんやけど……」


話ながらハルに目線を向けると少しばかり頭がすっきりしてきたのか虚ろな目できょろきょろと辺りを見回してからワシを見上げる。


ハァ、とため息をついてから隣に腰を降ろしハルを横目で見る。バツが悪そうに一度目をそらしたが再び2つの目がワシに向けられる。


「あの、ごめんなさい。」

「こんのど阿呆!!……そんな如何わしいとこで働かんならんくらい金に困っとるんか?」

「うーん……でもお金はあるほうが良いから…………、あ、私騙されたんですよ?自ら風俗店に行こうとおもったんじゃないですから!」


ほんまに自らカラダ売るつもりやったんならどついとるわ。


「せやけど面接行くにしてもちゃ〜んと調べてから行かなアカンで?子供やないねんからしっかりせんかぃ!」


ペコリと頭を下げたままのハル。きっともうクラブの面接行くの怖なってきてるんやろな。

「ほんで、この後も面接かいな?」

「いえ、今日はもう……。そうだ真島さん、もしお時間大丈夫だったら一杯付き合ってもらえません??」

「……その前に行くとこあるやろ、ホレ行くで。」

「??」

「コートと鞄!取り返さなあかんやろ?行くで!」


この寒い季節にジャケット着んと街を歩けば喧嘩が始まると皆道を開ける。まるでモーゼにでもなったようや。

ワシの後ろでジャケットを肩にかけてついてくるハルにも自然と視線が集まる。
そうや、そうやってワシのオンナやって認知したらええ。そしたらしょうもないアホはハルに寄ってこーへんからな。


たどり着いたハルを騙した店は仕事の早い柏木のおかげですでに片付いてた。床に転がる黒服を足で揺すり控え室の場所を聞く。



「あ、ありがとうございます!!」


白いコートを渡すとハルはワシのジャケットを肩から下ろしワシが着やすいように広げて持った。
おおきに、とそれに袖を通せば微かにハルの匂いと暖かさが残っていた。


「そうですね……バンダムなんてどうですか?助けて頂いたお礼にご馳走させてください。」


ハルは何も気にせずワシの右腕を掴んだ。




―もっぺんワシのモンにならへんか?―




ポロリとでてしまいそうな言葉を慌てて飲み込む。



バンダムに入り、一杯と言っていたのにわりと早いピッチで二杯飲み干したハルは、疲れも手伝ってあっちゅうまにトロンとした酔っぱらいになった。


「それでね、お兄ちゃんの布団カバーもね、全部私が選んで買い直したの!それで……」


眠そうな顔でさっきから喋ってるのは小さい頃の話ばっか。それもニィチャンとのエピソードばっかりや。こないして聞いてると誰がどう聞いても極度のシスコンとブラコンや。

あの桐生チャンのオンナも小さい時にニィチャンと出会ってればこうして大事に大事にされたんやろなぁ。せやけどアレはアレで大事に育てられたんやからエエか。


「なあハル、ええ加減ニィチャンの話やめへんか??」

「どうして??」

「もうおなかいっぱいや!別の話せぇへんか?せやな……ワシの作る神室町ヒルズの話どや??」

「聞きたい!!おいしいご飯のお店はいる??」

「モチロンや!飯からスイーツからいろんなもんぎょうさん入れるでぇ!エエ子にしてたらなんぼでも食わしたる!」

「やったー!!!……あ………………」

「?」


突然浮かない顔になったハル。どうやらエエ子というワードにひっかかったらしい。


「ん?どないした?」

「私……良い子じゃないから駄目だ!」


つまみのナッツを数粒口に放りこんでガリガリと噛み砕きながらハルは言う。


「私みたいな流されやすくてそれでいて自己中で自分勝手な子、良い子な訳ないもん。」

「なんでそない自分をマイナスに思うんや?」

「……それは…………」


言葉を続きをしばらく待っていると、ハルは無言をしばらく続けた後残りの酒をぐいと一気に飲み干した。


「そっ、そろそろ帰ります!真島さん今日はつきあってくれてありが……」

「おいこら待たんかぃ!!!!」

カウンターに一万円札を置いて逃げるように店を出たハルをワシは慌てて追いかけた。


スタスタと歩くハルを追いかければ距離を詰められないよう小走りを始める。
ヒールを履いたハルがいくら走っても一歩のリーチが全然違うワシは特に息が上がることもなくどこまでも着いていける。


「なあ、ハルて!どないしてん?!」

「着いてこないでください!警察呼びますよ?!」

「警察てオマエ……なんでちゃんと話聞かせてくれへんのやー」


はあはあと息の上がったハルは家まで後少しのところで立ち止まった。


「よっしゃハルの負けや。教えてや、オマエが駄目な理由。」

「……はぁ…………全部話したら嫌いになってくれますか??」

「はぁ??」

「真島さんから逃げた後、私お兄ちゃんとつきあってた。結婚するはずだった!」


知ってた事とはいえあんまり本人の口からは聞きたない内容がワシの耳に入ってくる。

「だけど今お兄ちゃんは側にいなくて心にぽっかり穴が空いちゃって……。」


じわりとハルの両目が赤くなる。


「それでっ……その穴を真島さんで埋めようとしてる最低な私がいるの!!」


言い終えたと同時にぽろりと大きな雫がアスファルトに落ちた。


「さみしいからって……、良くしてくれる真島さんを利用しようとしてる!!」


ポロポロと落ちてはアスファルトを染めていく涙は一体どういう涙なんやろう、ワシにはわからへん。
ワシを利用しようとしてる自分が嫌なんか?郷田龍司が側におらんことを実感して泣いてるんか?


「私が天使なんかじゃなくて人を利用する最低な女だってわかりましたよね……この数日間良いように利用してました。どうぞ呆れて切り捨ててください、本当にごめんなさい。」


深々と頭を下げてハルは背中を向けた。小さく震える肩が捨てんといて、って必死に言うてるの気づいてへんのかな。



「まあ待ちや。このワシを利用しようおもてたんや?そんなん頭下げたってどないしようもないで。とりあえずワシの話聞けや。」


震えてた肩がビクリと大きく揺れた。


「ワシから離れてすぐか?ニィチャンとやらと一緒なったんは。ケッコン?そんなん今となってはどうでもええ、そんなもん恋愛と勘違いしてた家族愛や。」

「ちっ、違うっ」

「ええから黙って聞けやハル。…………そりゃそうやわなぁ、ワシ、ひどいことしたもんなぁ。傷ついたとこニィチャンやったら綺麗に埋めてくれるわなぁ。そんで次はニィチャンが消えて穴開けて、そこをワシで埋めるやて……?」


震えながらハルがゆっくり振り返る。


「推されて流されて、ええ加減にせえや……。このワシを利用?エライええ身分やのぅ……。」


一歩一歩と距離を詰めると少しずつハルが後退りする。


「エエでその代わりなあハル、ワシはもうオマエの穴埋めたら一生動かんで?流されることも許さんし第一流させへん。」

「……ごめんなさい言ってる意味が……」

「自分で自分のこと最低な女やと思とるんか?」

「そりゃそうですよ、優しさで私を気にかけてくれる真島さんを私……」

「ほなそんな最低な女拾欲しいゆうんワシくらいしかおらんで。」



震えてたハルの体が止まり、ゆっくりをワシを見上げた。
涙で潤んだ2つの瞳にワシが綺麗に映る。





「ワシともっぺんやり直せへんか?」





大きな目が一際大きくなる。


「や、やり直すって……けど私……」

「ハルはさみしいのをワシで埋めて利用したらええ。ワシは手元にハルがおる、それでええ。」

「で、でも……」

「ワシを利用したいんやろ?ワシはオマエの側におりたい。両方の願い叶うと思わんか?」


困った表情のハルの手をとり握手をする。交渉成立や!

ニヤリと笑うとまだ腹を決めんハルがでも、と言おうとする。


「もうきまったことや!文句つけるならチューするで?」

「?!」


言いかけた口を慌てて閉じたハルにちょっとムカつきながら、ワシはハルの体をくるりと180度回し家のほうへ向かって背中を押す。


「振り返らんでええ。ほな、すぐそこやけど気ぃつけて帰りや。また明日連絡するから。」


頭が整理しきれてないハルはそのままワシの言い付け通りに帰って行った。
その背中を見ながらどうやって完璧にワシのモンにするか考える。

ま、推しに弱いハルや、もう8割がた堕ちてるはずや。
ワシの事、好きやと言わしたらワシの勝ちや。



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