main-連載
□恋する狂犬U-16
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「どないや桐生チャ〜〜ン!!」
勢いよく病室の引き戸のドアを開け一歩踏み出すと、跳ね返った扉が速度を緩めることなく向かってくる。
それをスルリとスウェイでかわした真島は陽気なステップを踏みながらベッドサイドまで近づいてきた。
「見舞いの高級リンゴやでぇ、この季節はリンゴがウマイからのぉ〜。」
面会者用のパイプ椅子にどかりと腰を下ろした真島を見て桐生がぼそりと声を出す。
「えらく上機嫌だな、真島の兄さん。」
「あったりまえや!ワシはいつでもご機嫌さんや!桐生チャンもホレ、そんな仰々しいギプスなんぞ取ってまえや!」
ぺしぺしとギプスを手のひらで叩きながら真島は空いた手でポケットをまさぐる。
「兄さん、病室は禁煙だ。」
「あ、せやった。」
火をつけないまま煙草をくわえると拗ねたようにうまく唇を使ってそれを上下させる。しばらくそれで遊んでいたがさすがに飽きたのか、真島はそそくさとそれをポケットの中へ戻した。
「なにかいいことでもあったんですか?」
「いいこともなにも桐生チャン!とうとうワシのもとにサンタクロースがやってきたんやで!」
ちらりとカレンダーを見るがクリスマスはもう少し先。やってくる、の間違いではないのだろうか。
「兄さん、クリスマスはまだ……」
「あのな桐生チャン、聞いて驚きなや?…………あのな………………サンタが……………………サンタのオッサンがな……………………なんと……!!……ハルを連れてきよったんやーーーー!!!」
パーソナルスペースもくそもない、少し動けば鼻先が当たりかねない距離まで詰めて叫ぶ真島に、桐生は眉間に皺を寄せ、あきれた顔をして肩を押し戻す。
恐ろしく笑顔のまましばらく桐生を見つめていた真島だったが、あまりの彼の反応の無さに上げた眉をおろす。
「……なんや、ちぃとも驚かんのぅ桐生チャン。」
「驚くなよと言ったのはあんたじゃねぇか。」
ほんまや!と再び笑顔に戻った真島は見舞いで持ってきた果物の籠の中からとびきり赤い林檎を選ぶと器用に愛用のドスで皮を剥いていく。
「そうか、ハルの奴、またこの街に戻ってきたんだな。それで……声はかけたのか?」
「そりゃモチロンや!ある意味千石の兵隊とやり合うたんがよかったんかもしれん。ほんでな桐生チャン、ワシ、アイツともっぺん一緒になりたいんや。」
皮を剥き、綺麗に1/8カットにされたそれをドスの先に突き刺して桐生に差し出す。そんな物騒なやり方を桐生は気にせず右手で出された林檎をつまみとった。
「まああんだけ酷い扱いしてしもたんや、それがなかったことになるとはおもてへん。せやけどやっぱりコレ、運命やとおもうねんワシ。アイツ幸せにできんのはワシしかおらんし、ワシしか幸せにしたらあかんねん。わかるやろ???」
「わからねぇな。」
「なんでや桐生チャン!!!」
口に近づけた林檎を奪われた桐生は、じろりと真島を見た後、ハァ、とため息をついた。
「兄さんは、幸せにできるのは自分だけだと思っているかもしれないがハルは兄さんに幸せにしてもらおうなんて思ってないかもしれないってことわかってるだろうな??」
「ンなことわかっとるわ!!せやけどとにかくハルのシマに入らんことには何にも始まらんやろ!」
林檎を一口で頬張った真島からシャクシャクと良い音が聞こえてくる。
「とにかくや桐生チャン、ハル見かけたら教えてな。ほなワシ事務所戻るわ。」
「あら、真島さん来てたん。」
真島が立ち上がったのと同時に狭山がドアを開けた。
「お、府警のネェチャン。今日もべっぴんやなぁ〜!」
「一馬、具合はどう?」
真島を完全にスルーし、桐生の元へ歩を進める。
「ああ、かなり良くなってる。」
「ヤラしいなぁ桐生チャン!病室にネェチャン連れ込んでなぁ!!」
「着替えとタオル、新しいの持ってきたよ。」
「すまない。」
「ちょお!!シカトはないでシカトは!!!」
二人の間に割って入る真島を煙たい表情で二人は睨み付け、呆れたため息をつく。
「そうだ一馬、さっきハルちゃんと会ったわ。」
「へぇ〜ほんでほんで?…………ってホンマかいなネェチャン?!?!」
二人の煙たい表情は、狭山がハルの知っているすべてを真島に教えるまで続いたのは言うまでもない。