main-連載
□恋する狂犬U-14
2ページ/3ページ
いつもと大して変わらなく見える神室町。
右目の隙間から見える情報だけを頼りに天下一通りを1人散歩する。
「桐生チャンはどこにおるんかいなぁ〜〜!」
よう見えんくたって桐生チャンだけは絶対見つけられるねんワシ。
ポケットで携帯の着信音が喧しい。
どうせ相手はいつも通り柏木か西田や。たいした用事やないやろ、とシカトを決める。
やけどいつまでたっても鳴りやまへん着信音はどんどんワシをイラつかせてとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「だぁぁあ!!しつこい奴らやなぁ!!」
仕方なくポケットから取り出して通話ボタンを押そうとするけど、まさかの見えにくいのとイラついてるのとでなかなかヒットせぇへん。
「もう知らんっ!!!」
そう言って地面に叩きつけようと腕を振り上げた。
「ん?!」
捕まれた腕から携帯がするりと抜き取られ、通話ボタンを押した音がした。そしてワシの耳にそれがあてられ聞こえてくる西田の声。
『親父?!今どのへんおるんですか?!もしもしっ?!』
「……おお、誰や知らんけどおおきに。」
「「預けとくさかい、大事にしといてや。」」
「??なんのことや?」
振り返った時にはもうワシの周りには誰もおらんかった。
「西田ぁ?なにをワシに預けるねん?」
『は??親父なにゆうてますの。自分そんなことゆうてません。それより今……』
誰や?何を預ける?何をワシは大事にするねん?
「まさか…………」
ワシは背中がゾクリとした。
「西田……大変や。……ワシ霊感持ちなってしもた……」
『はあ?なにゆうてますのん!』
「……声がな、聞こえたんや……なんかのお告げか警告ちゃうか……どないしよう西田!」
あわあわと口元を押さえながらワシはきょろきょろと辺りを見回して、ネエチャン霊感持ちか?!さっきワシの後ろにおった奴は人間やったか?!、と捕まえて声をかけてみるものの皆キャーと走って逃げていきよる。
これはやっぱりワシ、なんか憑いたんやでえらいことや。
とりあえずようわからんけど何かしら預けられた時は大事にしとこ。バチあたるのは嫌やからなぁ。
「いやー、焼き肉食いたいのぉ!ちょっと寄ってから事務所戻ろ!」
ワシは今までと変わらずフラフラと自由にしながら事務所に戻ることにした。
自分、どえらいことを親父に秘密にしてます。
それを知ってるのは自分と柏木組長だけで、もし口を滑らそうものならきっと柏木組長に命取られる、それくらいどえらい秘密です。
親父がひとりで千石組ぶっ倒して病院に担ぎ込まれたと柏木組長から連絡が来て、自分、生きた心地しませんでした。
走るなと言われながらも病院の廊下を走り、言われた病室の扉を勢いよく開けたんです。
幸いなことに親父の顔に白い布がかけられている事もなく、ほっと胸を撫で下ろしながら柏木組長に目線をやりました。
呆れた表情で親父を見つめる柏木組長の奥、不安そうに親父を見つめる女性……
ハルさんでした。
あの日突然姿を消したハルさん。
彼女をがんじがらめにしてることに薄々気がついていた自分は、きっと桐生さんの力でも借りて逃げたのだろうと思ってましたがそれは間違いやったようで、どうやら手を貸したのは柏木組長だったみたいです。
「神室町に時々来ていたのは知っていたがまさかこんなにタイミングよく出くわすとはな……。笑っちまう。」
親父の顔に付いた血を濡れたガーゼで優しく拭いているハルさんは、自分が最後に見た姿よりも少しだけ健康そうに見えました。
「お前がここにいたなんて後で知ったら、こいつさぞかし半狂乱になるだろうな。」
クックッ、と鼻で笑う柏木組長をハルさんが睨みました。
「そう怒るなよ。俺だってあのままお前を見て見ぬふりして死体で発見、なんて後味悪いことはごめんだったからな。」
やっぱりあの時ハルさんを逃がしたのは柏木組長のようです。
誰もわからなかったあれからのハルさんの足取りを知っている様子の柏木組長。きっと逃がす時に持たせた携帯に発信器でも仕込んでいたんやとおもいます。
「さて……、この際だからはっきり言わせてもらうが結城ハル、お前はなぜ今神室町にいる?」
「……それは……龍司くんに…………」
「お前のことが大切で絶対に守り幸せにする、そう誓えるならこんなところに置いていかずに関西で囲っておく。そう思わないか?」
「私、お、大阪には知り合いなんていないから……」
「なら神室町にはいるのか?せいぜい働いていた時の人間数人じゃないのか?その人間もお前の為に動いてくれるとは限らん。お前が郷田龍司の大事な女だと知られたら尚更だ。」
なんでこんなに柏木組長がきつい言葉をハルさんに放つのか理解に苦しみました。それに郷田龍司の女ってどういうことや。訳がわかりません。
「認めるのが怖いんだろう……?郷田龍司に捨てられたということを。」
「捨てられてなんかないっ!!!それにどうして私と龍司くんのことっ……」
「風間組の情報網をなめるんじゃない。それにいつまでもくだらない恋愛ごっこをするのはやめろ。」
「下らないってひどい!!」
自分もさすがに柏木組長のその言い方はないやろと思いました。恋愛は自由です。けど自分は二人の間に割って入る勇気なんぞありません。
「……っといいのか?そんな大声を出したら真島が起きるぞ?。」
眠ったままの親父を確認したハルさんは慌ただしく鞄を掴み部屋を出ようと立ち上がりました。
「目覚めたら顔でも見せてやれよ。」
返事もせずにそのまま扉を閉めて出ていってしまったハルさん。
追いかけようと思いましたが柏木組長のオーラが自分をそうさせてはくれませんでした。
「お……親父、目ぇ覚めとったらさぞかし喜んだでしょうね。」
「ハルがいる、ここは天国か?!ワシ死んでしもた!!……じゃねぇか??」
親父がそう言う姿が恐ろしく鮮明に浮かんで思わず自分、噴き出してしまいました。