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□恋する狂犬U-14
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『はい、親父はまだ寝とりますけど医者が言うには大丈夫だそうです。えっ?あ、はいそうですね、連絡していただけるならお願いします……はい、はいわかりました。では失礼します。』
「いやー、さすがに今回はもう駄目かとおもったけどさすが親父、骨すら折れてないってもうこれ妖怪や。」
「……誰が妖怪やねん。」
急にワシが声出したもんやから、西田のアホが女子高生みたいに黄色いキャーーゆうて飛び上がりよった。
「あっ親父目覚めたんですか?!……ってあれ?寝言か??」
「アホ、とおに目ェ覚めとったわ。」
西田がワシの顔を覗きこんで首を傾げる。そりゃそうやろな、だって今ワシの唯一見える目の瞼が腫れ上がって持ち上がらんのやもん。
「目……見えてます……?見えてないですよね??」
「見えてるか見えてないかゆうたら見えてるけど見えてないな。」
薄ーく隙間は開くけれどはっきり物が見える程ではない。ぼんやりうっすらレベルっちゅーやつや。
「柏木組長から伝言で、「しばらく出て来るな、ナースの姉ちゃんと宜しくやってろ」との事です。」
なんやかんやワシのことイチャモンつけてくるくせにこーいう時は必ず連絡を寄越してくる柏木。そういうとこ、風間の叔父貴によう似とる。
親父もよくでかいカチコミの後の叔父貴からの電話に文句垂れとった。やのに文句言うくせに切った後どことなく嬉しそうやってんな。今のワシもそう見えてるんやろか。
「腹減ったわぁ西田。」
「そういうと思いましておかゆ用意してありますよ!」
がさがさとビニール袋から何かを取り出す音がする。この流れやとレトルトのおかゆやな。
目の前にコトンと器が置かれ、西田から直接スプーンを手渡された。
「熱いと口ん中滲みたり大変でしょうから常温にしといて下さい。」
左の手のひらに小さい瓶を握らされる。ワシはそれをうっくらと見えるおかゆの器の上で逆さにすると小さく上下に振った。
ひっかけてこぼさないよう器を支えていた西田の手が離れ、ワシの左手はその器を持ち上げる。
スプーンで軽くかき混ぜてから口に運ぶと思ったより刺激が強くて思わず顔をしかめた。
「あ、やっぱ滲みます??けっこう塩はいっとりましたんで……。」
「知ってたら止めろやこのアホ!くぅ〜っ!……ま、消毒やおもて流し込も。」
ほっぺに溜めると余計に沁みるから、ワシはスプーンを置いて器ごとごくごくと飲んでやった。
「親父、自分着替えやら取りに一旦戻ります。安静にしててくださいよ?」
「安静もなにもどっこも悪ないのに寝たきりなれっちゅーんか。」
「そりゃ確かにどっこも悪ないっちゃー悪ないですけど何日も寝たまんまやったんやからどこかしら悪うなってたんです!!とにかく戻るまではベッドでゴロゴロしとってください。」
そうか、ワシ、何日か寝たまんまやったんか。せやったらこの腫れた右目は寝過ぎで浮腫んでるのもあるんちゃうか。
背もたれのように起こしていたベッドに体を預けて軽く右手を上げたら、西田は安心したように病室からでて行った。
うっすらしか開かない右目ではテレビも観る気にならん。
「せやけどひっさびさのドス、えらい気持ちよかったのう〜〜。」
枕の下に手を伸ばし右手でドスを探す。
あれ?……あらへん……
西田のやつ、ドス握ったらまたすぐワシが出掛ける思て隠しやがったな!戻ってきたらお仕置きや。
ため息をついて右目を閉じる。
千石組を全員ぶっ倒して桐生チャンの姿が見えた時反対側から聞こえたワシを呼ぶ声。
桐生チャンの女に叱られた後感じたあのぬくもり、におい……
あれはハルや。
このワシが間違うわけあらへん。間違いなくハルや。
なんでワシはあそこで意識を手離したんや。
意識さえあればハルの腕を掴んで離さんかった。泣こうが喚こうが絶対に離さんかった。
そしたら今頃アイツはこの病室におったのに。
顔ぐっしゃぐしゃにして泣きながらワシにこう言うんや。
「真島さんっ……死なないでっ……」
そこで目を覚ましたワシが一言。
「……アホ……ハル置いて先逝くわけあらへんやろ……。」
「真島さんっ!!」
子供みたいに泣きじゃくりながらワシに抱きつくハルの頭をぽんぽんしながら、
「……ワシが逝く時はオマエも一緒や……あの世でもずっと一緒や、な?エエやろ??」
枕の下からドスを取りだし気付かれないように鞘から抜くと、抱きつくハルの背中側から心臓を一思いに突く。
「……っ!!!!!!真島……さ…………?」
「オマエはずぅっとワシだけのモンや……いろいろ邪魔が入るこの世はもうエエ、二人っきりであの世で過ごそうや……な?」
「……わ……わたし…………」
「心配せんでええ。ハルの心臓が止まるまでこうやって抱きしめたる。そのあとすぐワシも逝くからちいとだけ待っててや……。」
………………って違うやろ!!!!!
酷い夢に飛び起きたワシは勢いつけすぎてセットされたままやったテーブルにおもいきりデコをぶつけた。
なんやねん、あれだけ後悔して悔やんで悔やんで舌噛んで死んだろかおもうくらい後悔して、ようやく楽しかった事だけを思い出せるようになってきたのに、結局ワシの根っこの部分はどす黒い闇のまんまや。ハルを傷付けることしかできん自分勝手なクソのまんまや。
「堪忍やでハル……。」
がしがしと頭を掻きながら再び背もたれに体を預ける。
ワシの根っこがまだまだどす黒いから神様がワシの意識を無くしたんやな。せやけど神様も殺生なことするで、あんだけハルのにおいプンプンさせといてハイ意識飛んでけ〜ってな。
ま、ワシもこんなときしか神様神様言わんからお互い様っちゅー感じやな。
エエ気分で意識飛ばされたおかげでひさびさにスッキリ目覚めたしなあ。
「来年は初詣ちゃんといこ……」
新たなる決意をしたところでタイミングよく西田が戻ってきた。
約束通りベッドにいるワシを見てうんうんと頷くと、紙袋からワシの着替えを取り出しいつものパイソン柄のジャケットを掴んだ。
「親父、このままここにいますか?それとも事務所へいきますか??」