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□恋する狂犬U-12
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積み上げた鉄骨の上に腰をおろし、真島は考え事をしていた。




約束したもんやから引き受けることになってしもたけど正直めんどくさいのう


神室町を守るゆうたかてこないな街どないして1人で守ろかな

いっそ街全体を壁で覆ってしもたらどやろか
バリケード作って何人たりとも入れさせへんし出させへん



……けどバリケード作るってなったらワシ1人じゃ無理や、組のモン……いや作業員らに声かけんとあかん



でもなぁ……カタギなったあいつら巻き込むのは気ィ引けるしのぅ






「ダアァァアアアァァァッッ!!!」





思わずあげた奇声に側にいた西田が飛び上がる。




「どっどないしたんですか親父。腹でも減っとるんですか?!」



「腹空かしたくらいで奇声なんぞあげるかボケ!」



「いやいやそんなんゆうて……。前にいっぺん腹減りすぎて組み立てた足場壊しましたやん。」






せっかく組み立てた足場、それを腹が減ってイライラするという理由で蹴り飛ばして壊した上に作業員3名を病院送りにした。


ついさっき、結構時間をかけた新しい足場が完成したところ。
また蹴り飛ばされてはたまったもんじゃない。





「そうかぁ〜?そんなことあったかいなぁ〜…………」



「たまには散歩でもしてきたらどうです?しばらくうろうろしてへんからようさん喧嘩相手ついてきますで?」



「せやなぁ、ひさびさに散歩でもしてこよか!……あ、喧嘩はせぇへんで西田!ワシ、カタギサンやからなっ!」



「さすが親父っ!!」






ほな、と公衆トイレとつながっている扉を開けて久しぶりの街へ一歩出る。







「ま、売られた喧嘩は買うけどなっ!」




口笛を吹きながら歩き慣れた神室町を散歩する。

ひさびさの外とはいえ、毎日モニターで眺めている街でそう珍しい事など起きるわけがない。



とりあえずバッティングセンターでホームランを打ち、ついでにその場で殴りかかってきたギャングも打ち、ひさびさに従業員の引いた顔をみた。





劇場前広場でハトに幕の内弁当をやっていると、豪華なハトの餌に嫉妬したのかヤンキーが弁当を蹴り飛ばしたので、仕方なくそのヤンキーを蹴り飛ばしてハトの仇をとってやった。




「んもう、自分も食いたいんやったら素直にゆうたら買うたんのに……。」






天下一通りに出ると数人のヤクザが絡んでくる。

睨んだやろ!と詰めよってくるがそりゃあずっとガン見されていたら気になって見てしまうに決まっている。


目の前でしょうもないドスを出してきたからワシも持ってるで、と愛用のそれを見せる。

それを見て数人が真島に気付き深々と頭を下げて一目散に逃げていった。


ドスを出した男は引くに引けず、襲い掛かってきたが真島の長い脚につまづいて自滅。

仕方ないので路駐の車の下に寝かしておいてやった。






「じゃまするでぇ〜〜」




カラーン、と良い音を聞きながら真島はアルプスの窓際の席に腰をおろした。




「いらっしゃいませ、ご、ご注文は……?」



「うーん、腹はそない減ってないしなあ、おやつでも食おか、なんか甘いのんもってきて。」





こちらをみてはヒソヒソと話し声がいたるところから聞こえてくる。

そんなことは昔からなのでなんら気にはならないが、カタギになった今でも言われるのが不思議で仕方ない。





「……みんなワシが組抜けたんしらんやろからこうやっていつもヘルメットかぶってアピールしてるのになぁ〜。」





首をかしげながら短くなった煙草を灰皿に押し付けるとタイミングよくおやつが運ばれてきた。





「あ、あの……こちらでよろしいでしょうか?」






目の前に置かれたのはストロベリーパフェ。



てっぺんに乗せられた大きな真っ赤な苺がとても美味しそうに見えた。




「かまへんで、おおきにな!あとコーヒーも頼むわ。」




大きな苺を指先で摘まむと淡い記憶がよみがえる。







せや……これ食べてるあいつに声かけたんや……








最後にとっていた苺を真島に食べられてしまい怒ったハル




一緒にいるようになってからは、また食べられないように先に食べるようになったくらいそれを根に持っていたハル




あの時食べた苺もこの苺のように大きくて赤く、とても甘かった。









「…………っ!すっぱ!!!」







思わず声を上げた。





慌てて店長がパックにはいったままの苺を持ってくる。




「すっすみません!すぐに代わりの苺を!!」



「いや、かまへんかまへん。……バチが当たっただけや。気にせんといてえな。」






散々傷つけてボロボロにしたバチが酸っぱい苺やなんて、随分ワシも都合ええように考えるようなったなぁ





ハルと過ごした日をあれから1日たりとも思い出さなかった日はない。



毎日毎日後悔し、自分を責めて、謝罪を繰り返す。



しかし、何度後悔し、こうすればよかったのかもと想像してみても、やっぱりハルが自分のもとを去ったのは正しい選択だったというところに行き着いてしまう。



そんな中、やっとあの日々が夢だったのではないかとおもえるくらいには、どん底から這い上がってきた。



どうやっても辛い終わりにしかならないのなら、もう楽しかったことしか思い出さなければいい。


最近はふとした時に笑顔のハルを思い出して気分が明るくなることが増えた。




「やっぱあいつはワシのラッキーアイテムやったんやで。」




呟いてから、ラッキーアイテムとはまたちょっと違うか、と思いつつ、真島は銀の長いスプーンで溶けかかったパフェに手をつけた。








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