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□恋する狂犬U-11
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「帰ったでぇ〜!」


おかえり、と笑顔で駆け寄るハルに龍司はコートを脱ぎながらニヤリと笑いコンビニ袋を渡す。


中を見てさらに笑顔になったハルはお礼を言うと、はやく食べようと彼に背中を向けて歩き出した。



「ハル〜おんぶしてくれや〜〜!」


「えっ?!ちょっと重っっ!!!」




小さな両肩にずしりと龍司が腕を預ける。ただそれだけで彼女はよろよろと頼りない。



「ほれ!しゃきっと歩かんかい〜!」


「むっ無理だよ〜腰抜けちゃう!!」




非力な奴やなぁ、と言いながら伸ばした両腕を曲げて彼女を引き寄せる。
そして後頭部にキスをすれば、風呂上がりのシャンプーの優しい香りが鼻をくすぐる。








何が関西の龍や







関西と付くだけで自分がとても小さく感じる。



関西だけでいきがってる龍





そう言われてるようでとことん気に入らない。


それにもう1人自分と同じように龍を背負っている男がいる。






堂島の龍 桐生一馬






それを知った時からいずれ戦うことになるだろうと楽しみにしていた。






龍は一匹でええ



わしのこの黄龍を日本のたった一匹の龍にしたい



その為にはどんなことだってしてやる





探していたハルが手に入った


あとはもう一匹の龍を潰すだけ







龍司は少し前の出来事を思い出していた。










「お酒くさーい!また飲んできたの??」


ミネラルウォーターが目の前に差し出され龍司は我にかえった。



「アホ、水飲むほど酔うてへん。」



後ろからジャケットを脱がせたハルは、呆れた顔をしながらそれをハンガーに掛けるとルームサービスのメニューを開いた。



「ワイン?シャンパン??なに飲むの??」


「お前が飲みたいもん頼めや。」




程なくして部屋のチャイムが鳴りガラガラとワゴンが運び込まれた。



「シャンパンか。」


「うん!だってこの部屋贅沢で何かの記念日にしか泊まれなさそうなんだもん!だから記念日っぽくシャンパン!」




記念日か……
なにかないかな、としばらく考えた龍司は両手をパン!と叩き嬉しそうな顔をみせた。




「ハル!紙もろてきたんやろ?それ書いたら記念日なるやないか!」


「ああ!!!」




鞄から取り出した少し大きめの封筒の中に夫婦になるための用紙が二枚。



部屋に置いてあった万年筆を掴むと龍司がさらさらと空欄を埋めていく。



「ちょっとまって!なんでそんなに失敗しないで書けるの?!」


「わしは本番にめっぽう強いからなあ!」




あっという間に書き終わったそれをハルの方へ置く。



「はよ、一発で書けよ。」


「ちょっと!プレッシャーかけないで!!」



万年筆を持つ手が震える。



「失敗するっちゅーことはわしとの結婚が嬉しないっちゅーことやからなぁ。」


「もうっ!!やめて!!!余計に失敗するじゃん!!!」




ニヤニヤと脅してくる龍司の隣で時間はかかったもののなんとか一発で書くことができた。




「……ん?なんや、本籍とかかいてへんやないか。」



龍司は自分とは違い空欄があるところを指差す。



「あ、それね、私わからなくて……。住民票とかも全部向こうのまんまだし電話で全部郵送してもらえるみたいなんだけど時間かかるみたい。」


「時間て……どれくらいや?まあ別に焦ってるわけやあらへんけど。」


「2週間とかかかるんじゃないかな……。だからもし龍司くんがまたあっちに行くなら一緒に連れてってもらってやってこようかなとおもって……。」




龍司は少し間を開けた後「ほなそうし。近々行くし。」と答えた。




「じゃあ今日は【夫婦になりそこねた記念日】ね!」


「なんやそれ?!なんか縁起悪いし……しかもちゃんと書けたところで役所に出さな結婚したことにならんのやで?!」


「もう!細かいことはいいの!!!かんぱーい!」





一方的にシャンパングラスをチンと鳴らすとハルは金色の液体を美味しそうに喉に流し込んだ。









「あんたら……覚悟しぃや!!!」




映画を見てたはずなのに突然声を張り上げたハルに龍司がびくっと飛び上がる。


シャンパンでいい感じに酔いがまわっている彼女は上機嫌で極妻のセリフを真似る。



「まあお前にそんな台詞吐かすような状況にわしは絶対ならんけどな。」



わしの仇を取りにハルが刀振り回すなんぞ考えたくもないし絶対にありえへん。
まあそれでもハジキの使い方くらい教えといたほうがええんやろか……



「うわぁ!血がドバーッて!ドバーッてでた!」


「そらそうやわな、切られとんのやから……。」


「あ、そうだ、私も刺青いれるの??」



龍司の背中の黄龍を人差し指でつん、としながらハルが呟く。



「アホ、そんなんせんでええ。」




「……なあ、わしのこの背中どう思う?」




突然の質問にハルの指が止まる。

ハルは知っているのだろうか、この世にもう一匹龍が存在していることを。




「どうって……。素敵な龍だよ。しっかりこっちを見て逃さない。私好きだよ龍司くんの龍。」



彼女を睨み付ける黄龍。

それに彼女は何のためらいもなく口付けをする。




「龍司くんの背中にこの龍が彫られてるの、初めて見たときはちょっと驚いたよ?私の知らない間に龍司くんがどんどん変わっちゃったみたいで。……でもね、この龍は龍司くんが前を向いている時に私を見てくれてるの。喧嘩して怒って背中向けても龍が私を見てる。危ない目に合わないか守ってくれてる。そう思うんだ。」




「……龍がな、もう一匹おるんや……」




お前がそう言うて誉めてくれたこの龍は、近いうちにお前やなくてもう一匹の龍を見続けることになるやろう



「そ……そうなんだ……、」



「なあ、龍はこの世に一匹でええと思わんか……?」



「……そ、そうだね。」



そのもう一匹の龍と争う時、きっとわしの中にはお前のことなんぞなにも残ってへん


目の前の龍を倒す、ただそれだけの事しかあらへんやろう


それでも争いが終わってわしがこの世
の龍に選ばれた時、その時から一生を終えるまでこの龍はずっとお前を見続けて守り続ける。


せやから少しの間だけよそ見をするで。




守ってくれるもんがおらんと駄目になるような女とちがう

わしがいっぱいいっぱいの時くらい自分で自分を守れる女や



せやからわしはお前のこと愛してるんや





「ハル、好きやで」



「どっどうしたのいきなり?!」



まさかの照れる言葉にハルが龍司覗きこむ。


龍司の立てていないほうの膝から俯く彼の真下に入り込んで顔を見る。


目と目が合い、いつになく真剣な表情のまま龍司は右手でハルの柔らかい髪を触る。




「……一番大事や。」


「……龍司くん…………」



最後にはにかむように笑顔を見せた龍司は、ハルをその場に残してバスルームへと入っていった。





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