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□恋する狂犬U-9
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あの時の龍司くんの目、まるであの人と同じような目だった。

嫉妬と独占欲に飲み込まれた目。まさかあの龍司くんもあんな目をするなんて。

ドアが開かなかったらきっと今頃縛られて部屋に閉じ込められてたんだろうな。そんなことしなくたってそばにいるのに、待ってるって言ってるのに。
今頃暴れてるのかな、ドアを開けてしまった組員さんは大丈夫かな。


ホテルを飛び出たのはいいけれどここがどこだかよくわからない。神室町を一歩でてしまえば完全に知らない場所だ。あまり遠くへ行って戻れなくなっても困る。

それに今私が持ってるのは携帯電話だけ。しかも充電がなくなりかけの。

こないだ龍司くんに言われたことをふと思い出す。あれはどう考えてもプロポーズだった。


子供の頃、ずっと願ってた夢。龍司くんのお嫁さんになるという夢。


龍司くんのことが好きという気持ちに蓋をした時期もあったなあ。彼は私のことを妹以上には見てくれなくて、つらくて、どうしようもなくて。
龍司くんへの気持ちをただの兄妹に対する気持ちへ切り替える為に彼氏も作った。
なのにようやく彼への愛情が芽生えかけてきた頃に龍司くんは私を引き寄せる。

彼の妹に対する愛情をきっとまた私は自分の良いように解釈してるだけ。
わかっているのにどうしても振りほどけなかった龍司くんの腕。


でもね

あの時振りほどいていてもきっと彼は何度も掴んで離さなかったとおもう。

だって、あの日から高校の卒業式までの間、本当に幸せだったんだ。
それはお互い確認してはいなかったけど、あの時の私達は兄妹の愛情ではなくきっと男女の愛情だったんだ。





私達が離ればなれになってから、彼はどんな毎日を送っていたんだろう。喧嘩に明け暮れ過ごしていたんだろうか。
そんな日々を過ごしながら、もし、もしもずっと私を想い、探し続けていてくれたとすれば……。


二度と会うことはないのかも。

毎日泣いて過ごしながらも徐々に日々の生活に追われ、そして私の中の龍司くんはいつのまにか過去のものとして心の引き出しに入っていった。


私が他の人に恋してる間も、愛されてる間も、そして、ボロボロになっている間も、彼は私のことを想っていてくれていたのかもしれない。



だとしたら……



あんな風に私をどこかにいかないようにしたりするのもわかる気がする。やっと手に入れた大切なものを絶対に離さないように。


私がはっきり言わないから、彼に気持ちを伝えないから不安になるんだ。こんなことになったのも私のせいだ。
でもきっと彼は今頃後悔してる。私を縛り付けようとしたことを。


あの大きな体がとても優しいのを私は誰より知ってる。



はやく戻ろう、龍司くんのもとへ。


安心して残りの仕事ができるようにちゃんと気持ちを伝えて、そして笑顔でいってらっしゃいと言おう。






私は一度だけぎゅっと目を瞑り、ホテルへと向かった。








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