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□恋する狂犬U-7
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「そないに端で寝んでもええやろ。」
優しく体を揺すられ片腕で簡単に引き寄せられる。
「えらい温いなぁハル。気持ちええわ。」
頭の上から降って来る声は少しお酒の香りが混じっていて、寝ぼけながら無意識に私は龍司くんの胸に顔をすりよせた。
……違う
いつものボディシャンプーの香りでもない彼から微かに漂う知らない香り。
私の知らない彼が垣間見えた気がして思わず息を止めた。
我儘だ。
いくら自分には今龍司くんしかいないからといって彼にも私だけでいてほしいなんて虫がよすぎる。
ただの兄妹なんだ、私達は。
ただほんの少し妹離れ、兄離れできていないだけの兄妹なんだ。
私は再び芽生えだした複雑な気持ちに気付かないふりをした。
翌朝、ずしりと重い腕をすり抜けベッドをおりる。うつ伏せで寝ている彼の髪に手櫛を通せばパリパリとした質感が伝わり指が止まった。
サウナにでも寄っていたのなら一度洗った髪をまた整えないだろう。整髪料がついたままの髪は洗髪していないか再びセットしたかのどちらか。
私が居候し始めてからほぼ毎日帰宅する彼だけどよくよく考えてみれば彼女の1人や2人いるはずで
、その彼女からしてみれば私はとても迷惑な存在だろう。当然ここに来ることもできず、ゆっくり会うこともできないだろうに。
昔はその彼女という存在によく嫉妬した。自分だけの龍司くんでいてほしくて。
今もその気持ちがあることはきっといけないことだと思う。
もう大人なんだ、私は。
「…なんや」
いつの間にか目を開けた彼は、頭に置かれた私の手を掴んだ。
「あー、昨日風呂入らんと寝てしもたわ。」
「だよね、髪パリパリだもん。」
どこで体洗ってきたの
そう思いながらも明るく返事をする。
まだ寝足りないのか布団の中に潜ってしまった龍司くんを見つめながら気付かれないように小さくため息をついた。
彼の体が放つ知らないにおいは私にとって不快以外の何物でもない。
「出かけてくる。」
私は早くこの知らないにおいから逃げたくて外へ飛び出した。