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□恋する狂犬U-6
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「もっと酒持ってこいや。」
「おい!龍司さんが酒足らん言うてはる!はよ持ってこんか!!」



大層な量を流し込んでもほろ酔い程度にしか酔わなかった龍司が今夜は荒れていた。
理由など聞かぬが仏、やけ酒をしている彼を初めてみた取り巻き達はとにかく機嫌を損ねないようありとあらゆる気配りをみせている。
荒れた飲みっぷりに席についたホステス達も若干怯えた表情で、綺麗に整えられた指先が小刻みに震えていた。


飲んでも飲んでも心の端に張り付いた苛立ちは解消されない。



「もうええ、帰る。」


アルコールのまわった龍司の大きな体は男1人でも支えるのが困難で、数人掛かりでタクシーに乗せ郷田邸へと走っていく。
開いた目にぼんやりと映る蒼天堀のネオン。絵の具を零したように全ての色が滲んで見える様に龍司は自分がかなり酔っていることを悟った。



「龍司さん着きました…ってあれ?」


瞼を閉じて小さくいびきをかく龍司に男達はどうしたものかと悩む。無理に起こして機嫌を損ねるのも困りものだし、だからといってこのままタクシーで寝かせるわけにもいかない。


「龍司さ〜ん、家ついたんで部屋で寝て下さいよ〜」


覚悟を決めたひとりが優しく声をかけながら大きな体を揺する。



眠りを妨げる声と手にみるみる眉が歪んでいく。重い拳が飛んでくるのも時間の問題だ。
つぅーっ、と冷や汗が首筋へと流れた時、背後に気配を感じた男は車内に突っ込んでいた上半身を出して振り返った。



「あのっ…乗ってるの龍司くんですか?」


こんな深夜にも関わらず制服のまま駆け寄ってきた女子高生に驚いたものの、すぐに妹のハルだと気付いた男達は神様と言わんばかりに助けを求める。


「龍司さんが酔っ払って手に負えないんすよ。」
「龍司くんが?お酒強そうなのに。」
「今日の飲み方変やったんすよ、何かあったんですかねぇ。」



男に替わり車内に上半身を入れたハルは恐れる事もなく龍司の体を揺する。


「龍司くん!おーきーてーー!!」
「!!! ちょっ、そない耳元で大声出したらシバかれますっ…!」


とうとう開いた鬼のような目がハルを睨みつける。後ろで縮みあがる男達から声にならない悲鳴が聞こえた気がした。



「…なんやハルか。また勝手に家上がり込んできたんか。もうちょい寝かせえ。」
「まだ家とちゃうよ!ほら起きてっ皆迷惑してるから!」



不機嫌全開の態度に引きもせず彼女はさらにゆさゆさと龍司の太い腕を揺する。
額にびきびきと血管が浮き出てきたにも関わらず揺らし続けるハル。取り巻きの男達はとっくに安全を確保できる距離をとっている。
しかし、惨劇を見ることになると覚悟していた彼らの予想は外れ、龍司はようやく観念したのかめんどくさそうに瞼を上げた。



言われるがままにのそりと車内から大きな体を解放した龍司だったが未だ足取りはおぼつかない。ゆらゆらと危なげに体を揺らしながら一歩、一歩と足を前へ進める。


「ハル〜っ!、お前ちょお肩貸せ!」
「はいはい!あ、皆さん送ってくれてありがとうございました。」

「え…あ……お疲れさんでしたーっ!」



男達の声に振り向かず軽く手を上げて答えた龍司は隣に駆け寄ったハルの頭に肘を乗せた。


「おっ…重いっ……」
「ちっさいから肩やと低すぎるんや我慢せえ。それともなんや?大好きなニイチャンがこけてもええんかお前は。」






男達はよたよたと歩いて行く二人の後ろ姿を見ながら、二人が兄妹でなければ良いカップルになるのに…と思わずにいられなかった。




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