main-連載
□恋する狂犬U1
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ゆっくりと車が停車し、降りた私は見覚えのある建物に戸惑った。
目の前に建つ立派な建物は関西で一番大きい極道組織近江連合の本部。
「どないしてんはよこいよ。ん?なんや自分、近江のこと知っとるんかいな。」
一歩も足が動かなくなった私を引っ張るように男が歩きだす。逃げ出したいのにアルコールのせいでうまく走れそうにもない。
まさかこんなところに連れてこられるなんて…。わかっていたら蒼天堀で彼らについていかなかったのに。
後悔してもいまさらどうしようもない。
顔を上げれば建物の奥から大柄な男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お疲れさんです。えらいめずらしいですね、素人の女やなんて。」
「なんや、まるでわしがしょっちゅう女抱いてるような言い方しよるのお…気ぃ悪いわお前…」
「あ、すんませんっ!!せや、この子ですわ!名前は……ええと……なんやっけな?」
「……結城……」
私は咄嗟に偽名を使った。
「そう!結城言いますねん。じゃあ俺帰ります!!」
そそくさと彼におしつけるようにして私を連れてきた男はタクシーに乗り込み姿を消した。
「……こっちや、ついてきぃ。」
耳に届く低い声。
言われるがまま私は後ろについて建物の中に入る。いつかみたこの建物の中はたいして変わっていない。
この通路の奥、広がる日本庭園の裏口にある出入り口。
玄関があるにもかかわらずそれを素通りして離れの家へと向かう足取りはあの頃と同じ。
靴を脱いで部屋に上がれば暖房の温かさで少しだけ心が緩む。
「結城…ゆうたなぁ?」
「…はい…。」
ベッドに腰を下ろした彼は、私の手を引くと足の間に立たせる。
ぎゅっときつく瞼を閉じてめいっぱい俯く私の顔を、下から覗きこむようにして彼は言い放った。
「いつまでウソついてんねん、ハル。」
渋々目を開けるとそこには髪を金色に染めた男の顔。
「…おかえり、ハル。」
「っ…龍司くんっ…」
不器用にみせる笑顔に気持ちが緩んだ私は思わず抱きついて声をだして泣いてしまった。