main-連載
□恋する狂犬U1
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神室町から自分を追い出すかのように飛行機に乗り、降り立ったのは偶然にも大阪だった。
小学生の頃から高校を卒業するまでここで育った私にとって実家があるわけではないけれど生まれ故郷、そんな場所。
データがからっぽの携帯電話を切なさと一緒に鞄に押し込んで私は蒼天堀へと向かう電車に乗った。
数年ぶりにきたこの町はあいかわらず人で溢れていて、目に映る派手なネオンが神室町と重なる。
「はいオネーサン!ひょっとして仕事とか探してへん?キャバクラとかどう?」
スカウトの青年が突然顔を覗き込んできて、なぜか驚いた顔をした。
「え…てかなんで泣いてんの?俺?俺のせい?!」
「違います……ごめんなさい。」
自分でも泣いているのに気がつかなかったくらいもう心が疲れ果てていた。一人とぼとぼと歩き川沿いのベンチに腰を降ろし行き交う人を見る。こんなにたくさんの人がいるというのに知人は誰ひとりいない。
絶望的な気持ちに押しつぶされそうになっていたその時、柄の悪い男が近寄ってきた。
「なあネエチャン、自殺でもするんか〜?」
そんなに今の私は不幸そうにみえるのか。
それならばいっそ男のいう通り自ら命を絶ってもいいかもしれない。私が今死んだところで悲しむ人などいない。もちろん真島さんの耳に入ることもない。
いまさら部屋を借りて仕事を探して…もうなにもかもめんどくさい、貯金が尽きたらそのまま消えてしまおうか。
「えっらい辛そうな顔してんのお〜。そうや、今から飲みに行くんやけどどうや一緒にけえへんか?飲んだら気持ちもスカッとするで!?」
「一緒に…?」
「そや!!よっしゃ決まりな!ほら行くで!その荷物もったろ!!」
こんな見知らぬ男についていくなんて真島さんが知ったらどう思うだろう。入った居酒屋で彼の話を右から左へ受け流しながら、心の中の真島さんへの想いを私は必死に消そうとしていた。
しばらく摂取していなかったアルコールは弱った体と心をたちまち飲み込んでいく。
気がつけば男の知り合いが数名増えていた。
私の荷物と疲れた顔を見て家出でもしたのかと一見親身になって聞いてくれているように見えるが、きっと酔った私をホテルにでも連れ込むつもりなのだろう。
なにをされようが別にどうでもよかった。とにかく今は一人になりたくなかった。
「はいもしもしっ…お疲れさんです!は、はいっ、今居酒屋です。」
空気ががらりと変わったのはある男に電話がかかってきてからだった。
「え?女っすか?えらいめずらしいやないですかそんなん…。はあ……いや今たまたま道で声かけた子と一緒なんですけど………あー、好みではない顔や思うんですけどね?」
ちらちらと私の容姿をチェックしては電話の相手に伝えていく。
「わ、わかりました。気にくわんかっても怒らんとってくださいね?ほな今から向かいます。」
やっと通話を終えた男は少々だるそうに他の仲間に伝えた。
「兄貴や。なんやめずらしく素人の女欲しいんやて。こいつ連れていくわ。」
「え〜〜、……まあしゃーないわなぁ…。」
どうやら私はここにいる人達とは別の男に抱かれることになったらしい。相手が誰になろうと私にはどうでもよかった。
タクシーに乗せられ私はその男の元へと向かった。