main-連載
□恋する狂犬7
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「真島さん。私パークに入る前…ごめんなさい、きつい言い方しちゃって。」
「いや、ええんやワシこそ堪忍な。ひどい事ゆうてしもた。」
ゲート前で出会った女性のおかげで世界観を知った真島は、自分がハルに言ってしまった言葉をひどく後悔した。
「お詫びといっちゃあなんやけど、ワシちいと詳しくなったんやで?」
真島はハルが手にしていたお土産袋に描かれたキャラクターの名前をあげていく。さらにはハルが抱えている大きなクマのぬいぐるみの名前さえも言ってみせた。
「すごいっ!どうして?興味なかったんじゃないんですか?!」
「ハルらが行ってしもてから、妙なオバハンと知り合いなってなぁ、いろいろ教え込まれたんや。」
真島はハルが肩にかけていたプラスチックで出来た入れ物を開けると、中に入っていたポップコーンをつまんだ。
「この入れモンはミルクティー味!せやろ?」
「そんなことまで覚えたんですか!?」
「えらいうちのワンコは勉強熱心やのう。組の仕事もそれぐらい熱心にしたらええのに。」
奥の部屋から出てきた嶋野はいつもの紫のスーツに着替えていた。改めてそのオーラをひしひしと感じると、さっきまで腕を組んで親子ごっこしてたなんて考えられない。
「ほれニャンコ見てみ?ビデオまで観とるでこいつ。」
「あ!ほんと!」
「また顔に似合わずプリンセスシリーズやで?!」
「ちゃ、ちゃうねん!そのチョイスは勝手にオバハンがっ!」
慌ててDVDを背中に隠す真島に「そやそや」、とテレビの電源を入れてなにやらコードでカメラと繋ぎだした嶋野。
「もしかして撮った写真をテレビで?」
「そうや!どうせ真島に見せびらかすならデカイ画面のほうがええやろ!」
大きな画面に写し出されたのは楽しげにポーズを決めるハル。
キャラクターと3人で写っていたり、2人で写っていたり…。
「お前もこれで中がどんなんかわかるんちゃうかー?」
「親父……中の様子とかどうでもええねん。なんで…なんでハルと腕組んどんねんっ!!!!」
烈火の如く怒る真島に、至って冷静に嶋野は答えながら次々と写真を見ていく。
「なんで?なんでって親子ごっこしてたからやないか。」
「親子ごっこぉ?!」
「何をギャンギャン吠えとんねん。お前とニャンコが付き合うたらわしはおとーちゃんやないか。」
「なにかオトーチャンやきしょくわるい!こないハゲなオトッ……オトーチャン……?…つーことはワシとこにハルがヨメに……!!」
「なっ!!そんなのまだ考えてませんっ!!!」
自分のところへハルがお嫁に来るから嶋野が義理の父親になるということに機嫌を良くした真島は、ハルの声など聞いていない。
「ユメノクニってすばらしいなぁ〜!そういうことなら親父、今回は特別に許したる!」
ぺしっと嶋野の頭を軽くはたいたお返しに重い裏拳が飛んできたがそれでも真島はご機嫌だった。
「ほなハル明日も仕事やろ?送ってくから帰ろ。」
「ニャンコ、組のモンに写真現像さしとくさかい、また取りに来たらええ。」
「わかりました。今日はほんとにありがとうございました嶋野さん!」
嶋野組を後にした2人は、真島の呼んだ車に乗り込んだ。大きなクマのぬいぐるみのおかげで、いつもより2人の距離は近い。
「なぁハル、ワシ思たんやけど王子さん戻らんとライオンのままのほうがかっこええと思やん?」
「ビーストですか!私もそう思いました!」
女性に渡されたDVDのおかげで会話が弾む。彼女には本当に感謝すべきだ。
日付も変わり、夕方からとはいえはしゃいできたハルはいつのまにか目を閉じていて、真島が眠っていることに気がついたのはハルが肩に寄りかかってきてからだった。
ハルを起こさないようそっとポケットからタバコを取りだし火をつける。
「ワシのお姫さんはすやすやどころかグースカ眠りこけとるで。なんやったかな〜この映画のタイトル〜。」
呪いによって眠ったままのお姫様を王子様が助けに行き、愛のキスで目覚めるストーリー
真島はDVDの映像を思い出しながらゆっくりと煙を吐いた。
「王子さんとこにおる姫さんが悪魔のキッスで目覚めたらおもろいのになぁ〜!」
長く伸びた灰が車の振動によって落ち、風に煽られハルの髪に触れた。
ああ堪忍、と真島はやさしく払い落とす。
ふと目線を動かせばそこには無防備に眠るハルの顔。ハルへの気持ちに気付いて間のない頃に見た同じ寝顔。
「ああ愛しのハル姫さん!ワシの愛の口付けで目覚めたまえ〜〜!!」
真島は大袈裟に手を広げて演技をし、眠るハルの方へ体を捻ると口付けをした。
唇が軽く触れるだけの子供のようなキスを。