main-連載


□恋する狂犬7
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嶋野とハルが疑似義理親子を楽しんでいる時、真島は中年女性にこのテーマパークの世界観を叩き込まれていた。






「よっしゃわかった!皆ここへ現実逃避しにきてるっちゅ〜ことやな!」

「現実逃避とはちょっと違うけど…。まぁ悩み事とかも全て忘れられるわ!それにプリンセスが出てくるお話に関しては、本当に女子の憧れよ〜!」



そう言って女性はフリルのついたロングスカートの裾をつまみお辞儀をしてみせた。




「なんやあれかい、白い馬に跨がった王子さんが〜的なやつか?」


あら、よく知ってるじゃない!、と女性は言いながら大きな鞄をごそごそするとたくさんのDVDを目の前に並べた。



「女はね、いくつになってもいつか王子様が迎えに来てくれるって思っているものよ。」

「ふう〜ん。んでオバハンには王子さん来たんかい?」

「……おだまり!!!」


痛いところをつかれ焦る女性を楽しみながら真島はひとつのDVDを手に取った。




「ああそれはね、呪いをかけられて眠ってしまったお姫様を王子様が愛の口付けで目覚めさせるの!」

「その王子さんが現れへんかったら姫さんどうなるねん?」

「…永遠に眠ったままでしょうね。」



王子が現れなければ姫はずっと呪いをかけた者の思い通りというわけか。

真島は呪いをかけた者に自分を重ねた。
王子さえでてこなければハルをずっとそばに置いておけるのではないだろうか。




「なぁオバハン、見てわかる思うけどワシ極道モンや。どう考えても王子さんっちゅ〜立場とちゃう、悪役(ヒール)や。」



女性は真島が極道だと言ったからといって特になにも変わらず黙って話を聞いていた。



「今、有り難いことにワシに惚れてくれてるであろう堅気の子がおんねん。せやから今はワシの呪いにかかっとる最中や。堅気の王子なんか出てこられたら困るんや。」




黙って話を聞いていた女性が何かを考え込んだのち発した言葉に真島は言葉を失った。






「けど…その子にとってはアナタが王子様かもしれないじゃない。」

「…は??…」



「まあ確かに世間からみればアナタは悪役かもしれない。けれどその肩書きも見た目も全て無くして本当のアナタに惚れているのだとしたら…?だったら彼女にとって王子様じゃない。」




白タイツに王子様特有の肩が丸くなったジャケット、白馬に跨がった自分…




同じタイミングで想像したのか2人は揃って苦笑いを浮かべた。



黒いレザーパンツにパイソン柄ジャケット、大蛇にでも跨がってるほうが自分にはしっくりくる。


そんな悪役丸だしの見た目の自分を王子様だと思ってくれるのならどんな悪魔の呪いでも立ち向かってやる。






「オバハンおおきに!なんかポジティブなってきたわ〜!"見た目"は余計な御世話やけどな!」



両膝をパンと叩いて真島は立ち上がると大きく伸びをした。

神室町に帰って暴れようと思っていたがそんな気も失せた。バッティングセンターにでも行こうか。


「ちょっと待って!これ、アナタにあげるわ!」


女性が差し出したそれは、先程真島が手に取ったDVDと、もうひとつはライオンと女のイラストのDVDだった。


「見た目に左右されず姿形が違ってても気持ちは変わらない。それが真実の愛よ!!好きになったらどんな人でも彼女にとっては王子様なの!」



嶋野と乗ってきた車がまだ停車していることを横目で確認した真島は、「見んと捨てるかもしらへんで〜」と言いながらもきちんとそれを受け取ると、上機嫌で神室町へと戻っていった。















「一体何時に帰ってくんのやろ、暇や〜!」



一旦事務所に2人は寄るだろうと予測した真島は、嶋野組の組長不在の組長室でくつろいでいた。

ふとテーブルに目をやると、そこにはさっき貰ったDVDが二枚置かれている。


テーマパークの世界観はなんとなく理解した。
キャラクターも自信はないが名前を覚えた。




「これ観といたらハル喜ぶやろか…。」



真島は一枚手に取るとケースを開けDVDプレーヤーに押し込んだ。








なんとなく流す程度に観るつもりだったのにいつのまにかのめり込んでいたおかげで、あっという間に2作品共観終わってしまった。

「結局最後は"真実の愛〜"なんやな。なんなんやろなぁ愛って…。」



ソファーにごろんと横になると、珍しく集中したせいか睡魔が襲ってきた。















ん?どないしたんやハル、そない綺麗なドレス着て

せやけどそのまま寝てしもたらしわくちゃなってまうで?いっぺん起き



おいハル、起きろゆうてるやろ!
こない揺らしてんのになんで起きへんねん!





せや、アレやな、さっきのやつみたいに"愛のキッス"で目覚めるパターンやな!


ほな失礼して・・・・・










あれ?なんで目ぇ開けへんねん!

よっしゃもっかいや!・・・・・









なんで!!なんで起きへんのや!ワシの愛じゃあかんっちゅ〜ことかいな!
そんなアホなことあるわけないやろ!こんなに好きやのに!!!



あっ!!オマエ誰じゃ!?

ワシのハルに勝手に触んなや!死にたいんか!


ちょ、ワレ何する気やねん…まさかハルにキスする気ちゃうやろな?

そんなんしたらどうなるかわかっとるんやろなぁ?楽には死ねへんで?





あっ!やめろっ!離れんかいっ!!!











ゴフゥッ!!!





突然の強烈なみぞおちの痛みにソファーから転げ落ちる。


胃から込み上げてくるものを必死に堪えながら、自分がいつのまにか眠りに落ちていて、先程の嫌な場面は夢だったことに真島は内心ほっとした。








若干痛みが落ち着いて、さっきの痛みが嶋野の拳だと気付く。
むせながらも真島はおかえりと口にした。


大きく欠伸をして顔を上げれば、よほど楽しんできたのだろうキャラクターの耳付き帽子をかぶった嶋野と、クマのぬいぐるみに隠れて見えないハルがいた。




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