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□恋する狂犬7
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「疲れたわ〜休憩や!タバコ吸わしてくれ!」
「え〜!また休憩?!それって年ですよ!しかたないなぁ、コーヒーでも買ってきます?」


頼むわ!と嶋野が差し出した万札をハルは受け取った。

「ポップコーンも買っていい?おとーさん!」

「またポップコーンかいな?!なんかちゃうもんはないんか?」
「だってさっきの嶋野さんがほとんど食べちゃったんだもん!」



嬉しそうに走っていくハルの後ろ姿を眺める嶋野の目はとっても穏やかだった。







それは少し前にハルがキャラクターと写真を撮る為に並んでいる時だった。

順番が回ってきて嶋野は持っていたデジカメをポケットから取り出し構えた。



「撮るでーニャンコ!こっち向かんかい!」

「私が撮りますからどうぞお父様も隣へ!」



女性キャストが嶋野をハルの父親だと思い声をかけてきたのだ。


「いや、ワシはこいつのオトンちゃうんやけど…」

「ほら!恥ずかしがらずにどうぞ!」


嶋野の言葉が聞こえていないのか、キャストはカメラを奪い取ると嶋野の体を押した。

困っている嶋野を見ていたハルはわざとらしく言う。


「おとーさん!はやくっ!!」
「おっ、おいニャンコッ…!」


キャラクターと嶋野の間に挟まれたハルは両者の腕に自分の腕を絡ませた。


「撮りますよー!…はいお父様もっと笑って〜!!」











「な〜に観てるんですか?」


気づけば買い物を済ませたハルが嶋野の持つデジカメを覗きこんでいた。

「え、えらい早いやないか!ん?なんやその帽子。」


慌ててカメラの電源を落としコーヒーを受けとると、ハルが小脇に抱えている帽子に気がついた。



「あ、これ?せっかくだから嶋野さんにかぶってもらおうかと…。」


頭に乗せられたのはねずみの耳を型どった帽子。
それはスキンヘッドの嶋野の頭にまるで特注品かのごとくぴったりフィットした。


「似合うよ!おとーさん!」


ハルがバッグから取り出した鏡で自分の姿を確認する。
厳つい顔に可愛らしい耳……決して似合ってはないような気がするが、ハルは喜んでいるし周りの人達も特に気にもしてなさそうだ。


「なんやこんなもんかぶるなんぞ、組のもんに見られたら威厳も糞もあらへんな!」


少し恥ずかしさがあるものの嶋野はタバコをもみ消すと立ち上がり、ハルが腕を組みやすいよう少し腕を浮かせた。

それに気づいたハルは腕を絡める。


「なんだか本当のお父さんみたい!」

「真島の嫁なんやからまぁ合うとるな!」
「よよ嫁っ!??私真島さんとはまだ付き合ってもないし!」
「まあまあ細かいことはええ。わしあの人魚ショー観たいねん。行くで!」



未来の義理親子は食事までの数時間を楽しんだ。








食事をしながらラグーンでのショーを観るなんて、なんて贅沢なんだろう。
ハルは感動した。

嶋野はピカピカ光る夜のパレードと勘違いしていたようで、ラグーンショーには興味を示さず肉料理を頬張りながらハルの横顔を眺めていた。




「なあ、ニャンコ…いやハル。」

「んー?」



ショーに夢中で話しかけるなと言わんばかりに顔も動かさず適当に返事をするハルに、嶋野はそのまま話を続けた。




「わしな、病院の帰りに飯行った時、ほんまはおまえに神室町から出ていけ言うつもりやったんや。」

「んー。」


「けどいろいろ話して変わった。真島が惚れたんもわかったわ。ただな、東城会の人間としては正直ええ顔は出来ん。おおっぴらに紹介も出来ん。真島と付き合うならなおさらや。」

「んーー。」


「真島には話してへんのやろ?…………………おいニャンコ!!聞いてんのか!?」


突然の大声にびくっとしたハルは慌てて嶋野のほうを向いた。

「え、えーと…」

「おまえの生い立ちとかや!真島は知らんのやろ?」

「ああ、はい。まだ何も。たぶん話したのは嶋野さんが初めてです。憶えてませんけど…。」



病院にお見舞いに行った後無理矢理嶋野に連れていかれた店。そこで断りきれず飲みすぎて酔ったハルは、自分の過去を嶋野に話した(らしい)。
全てを知った上で嶋野は今日ハルを誘っている。本当にハルのことを気に入ったのだろう。


ちらりとショーを観るとクライマックスに近づきつつある。




「まぁいずれゆわなあかん時が来るやろう。今はゆう必要なくてもな。」



あっというまにまたショーに夢中になったハルの横顔に嶋野は続ける。




「…なぁニャンコ。」

「んー?」


「…もうじきわしらの時代が終わる。そしたら東城会っちゅー組織ががらりと変わるんや。」

「んー。…ん?終わる??」


「極道モンの、あの狂犬の女になるんはえらい決心がいるとおもう。ニャンコが嫌やったらそれはしゃーないことや。せやけどもし、もし真島のそばにおる事を選んだら…」



嶋野の話のところどころが気になるがショーもクライマックスで、注意力散漫になってしまっているハルは顔をキョロキョロ動かしては両方を吸収しようと必死になる。






「…そのときはハル、真島を頼んだで。」







嶋野のやけに真剣な声に意識がそちらへ傾いたハルは、一生懸命嶋野が話したことを思い出す。



「時代が終わるってどう…「お!ニャンコ花火や!!」


タイミングが良いのか悪いのか、盛大に花火が打ち上げられる。


にこやかにそれを見上げる嶋野を見ると、ハルはなにも聞けなくなってしまった。













「あ〜楽しかった!ほんとありがとうございます!」

「わしもひさびさにこない羽目外したわ。誰にも見られてへんやるやろか……おっと忘れるとこやった!一軒寄るとこあったんや!」

仲良く歩いて閉園間際に辿り着いた店は、このパーク限定のクマを扱うショップだった。


見付けるなり走って行ってひとつのぬいぐるみを抱き上げたハル。


「可愛い〜!!」

手に取っては置き、また別のを抱き上げたりしてる間に嶋野はスタッフに声をかける。


「預かってもうとる嶋野っちゅーもんやけど。」

「あ、嶋野様ですね?少々御待ちください。」



スタッフは急いで裏に何かを取りに行った。



「お待たせいたしました!」

「おう、おおきに。ニャンコ!ニャンコて!!!」

「えー?なんですっ…ってデカッ!!!」



嶋野が抱えていたのはそのクマのぬいぐるみの中でも一番サイズの大きいタイプだった。


「ほれ、土産や。ずーっと欲しそうに見とったやろ?どうせやったら皆持ってへんほうがええ思て。」

「ふふっ。素敵なお父様ですね!」


スタッフの誉め言葉にどや顔で返した嶋野はハルにクマを抱かせる。


「前が見えない〜!けどウレシイ!!ありがとうございます!!」


正面から見るとクマが歩いているように見え、皆から羨ましげにみられるハルに満足した嶋野は、そっとハルの肩に手を添えるとゲートを潜り帰路についた。



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