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□恋する狂犬8
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キャロラインを振り切った真島はなんともこのまま帰るのも気が進まず、いつものようにバッティングセンターに向かっていた。




中に入った途端に凍り付く空気。
それもそのはず、カチコミからそのままの真島組一同はあちこち血だらけなのだから。



「親父、せめて顔だけでも洗いましょうよ?皆ドン引きです。」

「やかましい!ワシは血の臭いなんぞな〜んも気にならへんわ!気になるんやったらオマエらだけ洗ってきたらええやないか!」

「えっええんですか?」

「しつこいねん!ええっちゅ〜たらええんや!なんやもっと血塗れなりたいんか!?」



バッターボックスから金属バット片手に真島が彼らのもとへ向かおうと一歩踏み出すと、ぶんぶんと首を振って慌てて組員達はトイレへ消えて行った。



ワシにはこんな姿がお似合いや。
ハルかてこんな姿見たら引くに決まってる。そんでもって嫌いになってくれればいい。




飛んでくるボールを次々と打ちながら、あの幸せな気持ちは自分には縁がなかったことなんだと言い聞かせる。


ほんの一時であっても、恋などというものに支配されてしまった自分を戒める為、自ら斬りつけた左の掌の傷口からじわりと再び血が滲む。



















「やだぁ〜!!まだ帰らないもん!」

「あああハルちゃんてば完全に出来上がってるよ!」

「ちょっとハルっ!しっかり歩いて!!」



べろんべろんの酔っ払いと化したハルを何とか腕を掴んで立たせると、一行はカラオケ館を後にした。



「ヤケ酒ヤケ酒〜!」

「そうだ!ロッカーなんか今日限りで忘れちまえ!」




偽兄貴達のいうロッカーとは真島のことである。



根掘り葉掘りプライベートを聞いてくる彼等に、酒のまわりだしたハルはいつの間にか真島の話を持ち出していた。

ずっと1人で悩んでいたのだから誰かに聞いて欲しかったのだろう。


どんな人?なんの仕事?と聞かれ、ハルは真島の見た目を素直に答えた。


「んとねー、背が高くてね、革のパンツに素肌にジャケット羽織っててー…」

「なにその服装!超ワイルドじゃん!」

「でねー、仕事は…」



マズイ!、と焦ったのは菜摘である。

タカユキとの恋を実らせる為にはなにがなんでもハルの口から"ヤクザ"という単語は飛び出てはならない。




「バンドマンなのよ!ロックの!!!!」





……駄目か…滑ったか…






「なるほど!だからそんなにワイルドな出で立ちなんだな!」



菜摘の苦し紛れの嘘がタカユキの同意によって残りの2人もそう思い込んでくれたことにより、真島の職業はロックのバンドマン、通称ロッカーとなったのだった。



「けどさ、俺思うんだけどロッカーだからこそハルちゃんにハッキリ言えないんじゃないかな?」

「なんだよそれ?」

「例えば…付き合っちゃうと少なからず束縛が生まれてロックな詞が浮かばなくなるとか、ファンがいるからバレたら大変だとかさ。」



真島がロッカーという嘘情報を流したのは自分自身なのだが、真剣に信じ込んでいる皆の意見を聞いてると吹き出してしまいそうだ。
そんな菜摘は込み上げる笑いをどうにか抑えながらハルに言った。



「住む世界が違うのよ、きっと。」

「世界が……違う??」



酔っ払いのハルなりにお互いの世界の違いを考えてみるが、浮かぶのは以前真島が店に顔を出していた時に連れていた綺麗なホステスばかり。



「確かに菜摘の言う通り真島さんのまわりには綺麗な人ばっかですよ!私なんて本気で相手されるわけなかったんだ〜!うわ〜〜ん!!!」

「ええっ!!そんな美人侍らすくらい有名なのかよ!何てバンド!?」

「ちょ、ハル!こんなとこで泣かないでよ!皆見てるわよ!」



偽兄貴達の真島への食い付きを右から左へ流しながら菜摘はなんとかハルを宥める。



よほど溜め込んでいたのか子供のように泣きわめいた後、突如涼しい顔を見せたハル。涼しいというより目が座っている。




「…真島さんに文句言ってやる。」



へ?、と一同聞き返したが、ブツブツと真島の文句を言いながらハルは歩き出した。


「ちょっとハルちゃん!どこいくの!?」

「真島さんに文句言いに行く!!!」

「居場所知ってるの?!」

「バッティングセンター!!!」



ああよかった組事務所なんて言い出さなくて…、と菜摘がほっとしたのもつかの間、勇ましく歩を進めるハルだが蛇行具合も素晴らしい。



「俺、車とってくるよ!あの感じじゃ迷惑だしいつになってもバッティングセンターにたどり着かないぜ…。」










暴れる無理矢理ハルを車に乗せシートベルトを付ける。


「痛い痛い!爪たてるなって!ちゃんとバッティングセンター行くから!!」


暴れたハルに引っ掛かれた偽兄貴の腕に爪痕がくっきりと残され、これではタチの悪い猫である。



「じゃあ私達先に帰るけどハルのことよろしくね?」



偽兄貴達に酔っ払いハルを押し付けてタカユキと帰ることになった菜摘は、心配そうな表情を見せるが内心小躍りだ。
ハルよくやった!と褒めてやりたいがそれは今するわけにはいかない。


菜摘とタカユキが見守る中ハルを乗せた車はバッティングセンターへと消えて行った。













「どうだった?いた?」

「いたもなにもヤクザが占領してて超ヤバイよ!!」



バッティングセンター前に停められた一台の車に持たれた男達は、店内の異様な様子について話していた。


「目が合うとヤバイと思ったからしっかりは見てないけどズラッと並んだ柄悪い奴等皆バット持ってたぜ!」

「そりゃバット持つだろ、打ちに来てんだから。」



どうやらイマイチ店内のヤクザたちの様子がイメージできない連れのほうは呆れた顔で頭を掻きながらちらりと車内に視線を向ける。

「んじゃどうするよ?彼女、気持ち良さそうに寝ちゃったぜ。」

「とにかくここにロッカーは来ないって!来たとしても移動してるよ。俺らも場所替えよう、むしろもう帰ろうぜ。」

「帰るっつったって…どうすんだよ?あいつらはたぶん取り込み中だし電話なんでできないし。」



八方塞がりな2人は車にもたれため息をついた。


「ロッカーに会えたら無理矢理にでも引き取って貰うのになぁ。」

「無理矢理なのかよ!」

「そうだよ。だって俺の予想じゃちゃんとお互い惹かれ合ってんだよ。なにかが邪魔して前に進めないだけ。だから俺らが無理矢理進めてやる!」

「おまえ…おにいちゃんだな!」



公衆電話を利用していた男が去り際にふいに車内を覗く。

中には彼等の妹らしき女の子がすやすやと眠っていた。



「よしっ!そうと決まればなんとしてでも探し出すか!」

「そうだな!!何処にいるんだ真島ぁ〜〜!!!」







少し張った声でそう言った彼等が車に乗り込もうとしている背後に、ゆらりと影が近付いた。




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