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□恋する狂犬8
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次に襲う組へ向かう前に、真島組はトレードマークでもある金属バットを取り替えに神室町に立ち寄った。

この時間帯になると食事を終えて二軒目に…と多くの人がやってくる神室町は、乗客を降ろすタクシーのおかげで車も走りにくい。



静かに赤信号で停車した黒塗りの車内で、スモークが貼られた窓越しに真島は流れる人を眺めていた。
なにげなく気にかかったグループをよくみる為に窓を開ける。

黒いガラスが下がるにつれ街や人が彼の目に鮮やかに映る。そのネオンの眩しさに一瞬目を細めた真島だったがすぐにその目を見開くことになった。


気にかかったグループ、その中に今一番見たくないハルがいた。
見たくないんじゃない、見てはいけなかった。






仲間であろうカップルらしき2人の後ろを歩くハルの両脇には男がいて、楽しげに腕を組んでいる。あの足取りからして少し酔っているのだろう。




そういえば以前も似たような現場に遭遇した。


あの時はただハルが無理矢理連れ込まれるのではないかとか、そいつを好きになったらどうしようなどという不安でいっぱいだった。



けれど今、真島の中に生まれているのはあの時とは全く違う嫉妬、独占欲。



なんであんな訳わからん男と腕組んでるねん

ワシの事好きなんやったらワシだけ見てたらええやろが

オマエはワシのモンちゃうんかハル





黒い手袋をはめた手が渾身の力で握り締められギチギチと音をたてた。













ドアを開けると共に鳴り響く銃声。それに恐れることなくバット一本で攻めていく真島組。


倒れた男が手放した銃を拾い上げた真島は、自分目掛けて捨て身で向かってきた男に銃口を向けると引き金を引いた。

微塵の狂いもなく目と目の間に穴があいた男はまるで漫画のワンシーンのように倒れた。
ぴくりとも動かない物と化したその男を跨ぐように立ち見下ろした真島は、残りの弾を使って眉間の穴をベースに顔に一列の線を引いた。
穴だらけの顔面は血塗れでもはや誰なのか検討もつかない。



「やっぱりハジキはつまらんのぅ。な〜んの手応えもあらへん。」


男の胸に腰を降ろし項垂れていると奇声と共に影が動く気配がした。

真島は左に持っていた金属バットを振り下ろした。
奇声がうめき声に変わる。
空になった銃を凶器がわりに男の頭目掛けて振り下ろすと骨が砕ける音がした。


「ほう〜。こりゃなかなかええ武器やな。」



本来と違う扱いをされ褒められた銃だったがあっけなくポイと床に放り投げられ、それは真島組組員にやられて突っ伏した男の近くに転がった。


立ち上がった真島に一斉にかかってくる構成員達。


素早い動きで真島は1人、また1人と潰していく。


いつもと変わらない狂犬真島


誰もがそう思うだろう。

けれど当人の心境はそうではない。




今までありえなかったこと


戦闘中なのに、ハルが頭を支配していた。




ハルをワシのモンにしたら今日みたいなよその男と会うこともなくなる。ワシだけのモンにするんや。

ハルをワシの女にするんや。




他事を考えていても、生まれ持った喧嘩のセンスと経験で体が勝手に動く。




最後の1人であろう男が机の影から飛び出しナイフを振り回しながら突進してくる。


真島はわざとぎりぎりでかわすとそのまま頭を掴み顔面に膝をめり込ませた。

崩れおちそうになる男を簡単に倒れさせまいと再び掴みなおすと思いきり床に叩きつける。

髪をひっつかみ仰向けにすると馬乗りになり、背中からドスを抜く。



命の終わりを悟ったのか、血塗れの顔で命乞いをする男はこの組の組長。組の為に命を投げ出す組員と違い、己は自分の命が大事なのかと真島は呆れた顔をした。


「オッサン、ようそんなんで組持てたなぁ。ジブンみたいなんが女出来て弱なるんやで。」



-守るものができると命を張れなくなる-



柏木のセリフが頭をよぎる。


このシケたオッサンにも大事なモンがあるから命惜しがってるんやろか…








カチッ…







聞き覚えのある金属音が澱んだ空気にやけに響いた。



振り返った隻眼に映ったのは床に這ったまま瀕死の状態で銃を構える男。

その銃口は確実に真島を捉えていた。







カチッ、カチッ、と何度も響くそれは決して鉛の弾を弾くことはない。

彼が握った銃は、真島が空になるまで撃った銃なのだから。

絶命の時が来たのか、男は声を振り絞り「親父、すいません…」と呟き息絶えた。








真島は、実際に撃たれたわけではないのに時が止まったように動けずにいた。






男が銃を手にしたことはおろか、構えた気配すら感じとれんかった。

弾が入っとったらズドンと今頃あの世逝きや。


なんで

なんでこのワシがそんな隙を…









真島の下敷きになっている組長は腫れた目で唖然とした真島を見ると嘲笑うかのようにクククッと口元を動かした。





その笑いが引き金となり、真島は般若へと姿を変えた。


なんの躊躇いもなく振り上げたドスを嫌らしく笑みを浮かべる組長の目玉に突き立てた。
ぎぃやあぁぁぁ!と耳をつんざく悲鳴が響き渡る。





「オマエの…オマエのせいで柏木のゆうてたことがようやくわかったわ」



おおきに、と言った真島の酷く冷たい声は組長の新しい悲鳴によってかき消される。



グチャグチャと肉と血が音をたてるまで真島は何度も何度もドスを突き立てた。



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