main-連載


□恋する狂犬U-16
1ページ/4ページ






……へっくしゅん!!!



翌朝自分のくしゃみで目覚めた私は予想していた通り体がだるかった。
雪の積もった体でどれくらいアスファルトの上に座り込んでいたのかわからない。いくらその後暖まったとはいえやはり風邪をひいていた。

新しいこの部屋に風邪薬や体温計があるはずもなく、諦めてもう一度布団を頭まですっぽりかぶる。


「新しく仕事も探さなきゃなんないのに……。」



やはり自然治癒に頼るより薬の力を借りたほうがいい。私は無理矢理体を起こすと部屋着の上にありったけの上着を羽織り外へ出た。


雲ひとつない空、冷たい空気が肺を満たしていく。熱のせいだろう、あまり力のはいらない体は無事ことぶき薬局まで辿り着けるだろうか。


神室町はお昼前という比較的早い時間のおかげでそんなに人通りも激しくない。時々自販機に寄りかかって休憩をとりながらゆっくりと薬局を目指す。


「あんた、大丈夫なん?」


突然後ろから声をかけられ振り返るとそこに立っていたのは、あの事件の日追い付けなかった女性だった。


「あ……」

「あんた……あの時の。」


彼女はごく自然に私の体を支えるように隣に寄り添った。

「すみません、風邪ひいちゃって薬買いに……。」

「そんなこと知り合いに頼んだらいいのに。うろうろするほうがよっぽど危ないわ。」


彼女は相変わらず綺麗に前髪を流し、艶のある髪を後ろで束ねている。けれどどことなく疲れているように見えた。

「そういえば昨日、ビルの中にはいってくのを見ました。」

「ああ、爆弾騒ぎの時?そう、中に知り合いがいてね。」

「……桐生さん……ですか?」

「うん。ひどい傷だったけど生きててよかった。今病院にいてる。」


恐る恐る私はあのビルにいたもう一人の人、龍司くんのことを聞いてみる。


「……相手の人は…………」

「……郷田龍司?彼も生きてる。まさか好きな人と戦う相手が兄やったなんてね、ドラマみたいな話やわ。」

「兄は今どこに……?」


今思えばこの人が私と龍司くんの関係を知っているはずがない。けれどその時の私は熱のせいでそれに気づくことができなかった。


「とりあえず同じ病院には運ばれたけど。」

「その病院教えてくださいっ!」


彼女の両手を掴んで頭を下げてお願いする。小さくため息をついた彼女は捕まれた手をほどくと、元通り私を支えるようにポジションを戻した。


「あかん。あんたこんなに自分が弱ってるのに人の事ばかり優先したらあかんよ。治ったら私と一緒に病院いこ、な?」


確かに彼女の言うとおり今の私は自力で歩くことすらままならない。こんな状態で龍司くんのところへ行っても心配をかけるだけだ。


「連絡先教えとくわ。私は狭山薫。大阪府警の刑事やってるの。」

「結城ハルです。大阪からこっちに引っ越してきたばかりです。」

「そうやったん?!それは知り合いもいないやろうし心細かったんじゃない?しばらくは私こっちにいるからいつでも連絡して。」


偶然数回会っただけなのにこんなに優しくしてくれる狭山さんは、あっというまに私の心の中に入ってきた。この人になら龍司くんの事も話してもいいかもしれない。

私は友達になれるかもしれない淡い期待を抱きながら、彼女と連絡先を交換した。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ