main-連載
□恋する狂犬U-8
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「龍司さん!どうです?今晩飲みに連れてってくださいや〜?!」
「ああ?行きたいんやったらお前らだけで行けや。」
今日こそは旨い酒を飲み、あわよくばオネエチャンと良いことまでしたいと企んでいた取り巻き達を呆気なく切り離した龍司はほんの少し足早に家へと向かう。
「この頃今まで以上にハルさんハルさんゆうてんなぁ。」
「正直龍司さんのシスコンっぷりはやりすぎちゃう?溺愛しすぎやでアレ。」
小さくなる龍司の背中を見ながら取り巻き達は溜め息と一緒に愚痴を漏らす。確かにハルが大阪に戻ってきてからというものの、龍司が夜遊びに出掛ける回数はガクンと減少した。
先日久しぶりに呑みに行った後風俗店へ誘うことに成功し、てっきりスッキリとした表情を浮かべているのだろうと思いきや、満足できなかったのか不機嫌なオーラを放っていて、誘った事を大層後悔した。
「なぁ、俺実はずっと思ってたことなんやけど……龍司さんとハルさんってほんまに兄妹なんか?」
「ハァ?なにアホなことゆうてんねん。」
「よう考えてみぃ、2人全然似てへん思わんか?」
言われてみれば確かに似ていない。けれどそんな兄妹だっているはずで、龍司が妹だと自分達に紹介したのだ、それを信じないわけにはいかない。
「…まあ、実は兄妹ちゃうってほうがええかもな…。」
そんな事を思われているとは知らない龍司はハルの好きなアイスをコンビニで買うと、少しずつ寒さも和らぎ過ごしやすくなってきた夜道を足早に家へと向かった。
「おかえりー!」
「おお。なんや?」
ノートパソコンを膝の上に置いたまま振り返った彼女にコンビニ袋を突き出すと、中身が何か悟ったように嬉しそうな笑みを浮かべる
。
ふと液晶画面を見た龍司はとっさに突き出していた腕を引っ込めた。
「?!?!なに?!くれないの?!」
「…なんやお前、免許とろうなんか思てんのか。」
高校を卒業し上京したハルは毎日働き収入を得ることに専念していた。勿論教習所に通う隙などどこにもなく身分証といえば保険証。
しかし保険証には顔写真が載っていないため不便なこともある。大阪に戻り少しばかり時間を持て余している今は教習所に通う絶好の機会だ。
「免許あるほうが色々便利かなーとおもって…。運転もしたいし。」
「あかん…。」
「なんで?!」
「お前の運転なんぞ危ないわ。凶器や。」
そういう自分はいつも凶器(刀)堂々と持ち歩いてるくせに…。
むうっ、と膨れた顔を見せるハルの膝にあるパソコンを片手で閉じるとその上にコンビニ袋を乗せる。
がさがさと音をたてながら中身を取り出し、嬉しそうに蓋をあけてアイスを口に運ぶ姿を見ながら龍司はベッドに横になった。
水面下で進めているある計画。
それを実行するために一度足を運ぶことになった東京、神室町。
一泊で済ませる予定ではあるが問題がひとつある。
そう、ハルだ。
一晩くらい帰ってこなくても大丈夫なことくらいわかっている。もう子供ではないのだから。
実際、出掛ける事を伝えても「いってらっしゃい、気をつけてね」で終わるだろう。
後は外出せずに部屋にいるか確認と護衛を兼ねて下の者を数名付けておけば安心………のはずなのに。
どうしても自分の目の届く場所に置いておきたい
過保護な自分自身がつくづく嫌になる。と、同時にずっと手に入れたかったものがこの手にあることがなんとも心地いい。
何度もすれ違ってきたお互いの気持ち。
それがとうとうひとつになり、あの頃よりも強い絆で結ばれるのだから。
その日の深夜、自分の腕の中ですやすやと眠るハルの体を優しく揺らし起こした龍司は、まだ寝ぼけたままの彼女を抱き上げると車に乗り込んだ。