白銀の月

□第十幕
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銀時が食事を終えて土方の下へと赴いたのは、山崎が彼を呼びに来てから軽く一時間は経過した頃だった。
副長室の前に立つと、銀時は盛大なる大遅刻をかましているにも関わらず、なんとも間の抜けた声で中の人物へ声をかけた。


「オイコラ。来てやったぞコノヤロー。三秒以内に出てこねぇとこのドア全面的にマヨ塗りたくっちま・・・」

「大遅刻しておきながらどんだけ態度でけぇんだテメェは・・・!」


銀時が最後まで言い切る前に、勢い良く目の前の引き戸が叩き開けられる。
扉が開いた事で目の前に出現した瞳孔開き気味の瞳はピクピクと怒りに震え、口元に銜えられた煙草はもはやフィルター部分まで焼け焦げていた。


「遅刻も何も、別に時間指定されて無かっただろー?全く困るんだよね、そういう八つ当たり。急ぎなら自分で出向くなりなんなりあるでしょ?」

「だからわざわざ朝っぱらから山崎寄越しただろうが!」

「あーもう分かった分かった、で何?用無いなら帰るよ?」

「・・・クッ・・・とにかく、入りやがれ」


頭を抱えた土方が室内に誘導すると、銀時は一つ大きなため息をついて入室した。
自身の正面にめんどくさそうに胡坐を書いて座った銀時を一瞥して、ある一箇所に眼を止める。


「・・・あ?おい、なんだそりゃ」

「なんか今日その切り出され方ばっかなんですけどー?で、何が?」

「なんで隊服なんて羽織ってやがんだ」

「あー、これ?さっき総一郎君が、大串君とこ行くならこれを羽織っていけってよ。何、なんでお前ら揃いも揃って俺の服装気になる訳?お宅らピー子か何か目指してんの?」

「とりあえず俺は大串君じゃねぇ。・・・ったくあの野郎・・・どこまで邪魔しやがる・・・っ!」


沖田の隊服を羽織って目の前に座っている銀時は、気だるげに首筋を擦っている。
見るものを魅了するその仕草に見惚れつつも、その度に視界の端にちらつく黒い隊服がやけに癇に障る。
軽く舌打をすると、気分を切り替えるかのように新しい煙草に火をつけて、一息ついた。


「まぁいい。・・・早速だがな、例の拉致事件。テメェの耳に入れておきたい事があったんでな」


本題を切り出すと、瞳だけをこちらに向けてくる。
いつものような軽口が出てこない辺り、素直に聞く意思はあるようだ。


「・・・怪しいと思われる攘夷浪士に動きがあったという情報があった。正確な動向は現在調査中だが・・・ま、敵の狙いは分かってんだ。テメェはじっとしてろ」

「ふーん。っていうか、身元分かってんならさっさとお縄にしちまえばいいじゃねぇか」

「分かってねぇな、正確で確実な情報がねぇ以上、下手な事は出来ねぇんだよ」

「事が起こってからじゃ遅いと思うんですけどー?これだからここの警察、市民から苦情だらけなんじゃないんですかねー」

「テンメ言わせておけば・・・!!こっちだってな、捕まえられるもんならさっさとやってんだよ!!」

「あーそうですかー。・・・ま、そういう話なら俺はそろそろ出かけようかね」

「ってオイコラ、人の話聞いてなかったのかテメェは。じっとしてろと言ったんだぞ俺は」


小指で耳の穴を掃除しながら立ち上がろうとした銀時を、土方は額を引きつらせながら呼び止める。
だが銀時は全く気にしていないようで、小指の先に付着した垢を息で吹き飛ばし、呟くように言葉を発した。










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