緋色の鎖
□第八章
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「記憶が退行・・・・?」
今しがた到着した桂は、開口一番に高杉から聞かされた事実に眼を見開いた。
隣の部屋で眠っている銀色の状態は想像以上に悪いようで、開いた瞳を直ぐに思慮深げに細めた。
「軽く説明はしておいたがな」
「しかし混乱はしていただろう」
「いや」
「・・・?」
想像していなかった否定の言葉に、桂は眉を顰めて高杉を見る。
しかし当の高杉はただ煙管を吹かし、窓の外に無感情な眼を向けていた。
「理解してんのかどうかは知らねぇが、納得はしていやがった」
「・・・成る程な。あの時の銀時そのままか」
「あぁ。・・・俺達意外にはなんの興味もねぇ。・・・自分自身の事なら尚更な」
窓の外に向けていた瞳を、白い襖に向ける。
桂もつられるようにそちらに眼を向けてから、直ぐに哀しげに俯いた。
「退行した事が最善であったのか・・・なんにせよ、もしそれを銀時が望んだのなら、俺達に出来ることは一つだけだ」
視線が向けられていた襖が、まるでタイミングを読んだかのように開かれる。
驚いて息を呑むが、顔を出した人物は予想に反した人物であった。
「久しぶりにおうたが、寝顔は相変わらずじゃの〜」
顔をニヤケさせながら後ろ手に襖を閉めたのは、もじゃもじゃ頭にグラサンをかけた男。
「起こさなかったろうな?」
「当たり前ぜよ。で、難しい話しよったがか?」
どさりと音を立てながら腰を下ろすと、一瞬でその眼を真剣な色へと変える。
高杉は煙管の灰を落とすと、襟元にそれを片付けた。