短編
□誓いのアイリス
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目前に広がる銀髪。
零距離でニヤリと細められる紅玉。
その日僕は、この学園最大級の戦争の渦中へと、自ら足を踏み入れる事になった。
この学園にはアイドルが居る。
見るものを魅了し、その心を捉えて離さない。
文字通りその存在は銀色に輝いて、僕等の中心で華を咲かせる。
しかしその華はあまりにも気高く、何者にも捕らえられる事無くそこにあり続けている。
一方俺は、この学園においてはあまりにも地味で。
我の強い面子が揃う此処では前に推し出ることも適わずに、極々平凡な毎日を過ごさざる終えないような状況だ。
そんな俺が、その華に近づけるはずもない。
近付けば、華を巡る暴風雨に巻き込まれてしまうから。
あの華は愛しい。
しかし適うはずも無い戦争に突貫するほど、身の程知らずでも無いつもりだった。
それなのに。
あぁ、神様。
これは貴方からのプレゼント?
それとも、地味な俺に対する洗礼?
いずれにしても。
今眼があっているこの華は、どうやら夢ではないらしい。
「なーにボケッとしてんの。人の顔見ながらだんまりとかは失礼だって、お母さんに習わなかった?ジミー君」
「へ?あ、すみません・・・って、誰がジミーですか!!俺は山崎です、や・ま・ざ・き!!」
「あーごめんごめん。で、そのジミー君はこんなとこで何してんの。あんぱん右手に投身自殺でも計りに来たわけ?」
「だから!!俺は山崎だって言ってんでしょうが!!しかもあんぱん持って自殺て、アンタ俺のことなんだと思ってんの!!お昼ご飯ですよ、ご飯!!」
青空が頭上に広がるこの屋上。
天気も良い事だし、ゆっくり風に当たりながら昼食でもと思った矢先、既に先客として此処に居た銀色の華こと坂田銀八。
彼はフェンスにその身を預けてゆっくりと紫煙を漂わせながら、気だるげに開かれた眼をこちらに向けている。
「ふーん。いい若者が昼休みにあんぱん一個たぁ、不健康だよ?君」
「昼休みに煙草ふかしてる人に言われたくないんですけど・・・」
「俺はいーの。もうすっかりおじさんですから」
そう言ってニヤリと微笑む顔は不敵で怪しく美しい。
何が”おじさん”なものか。
うちのクラスには貴方よりもおじさん・・・というかむしろゴリラに近いような生き物だっているというのに。