炎熊の航路

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…あの事件から、直ぐ様ラウの手配書が、世界に流れるように伝わった。

しかし、それは後の話。


今のエースらは、それを知る由も無く、ピリピリする空気が流れていたのだ。




ラウ「…………エース…」


エース「…………」



あの海軍船の追手も撒けて、今エースらは岩場に身を隠していた。

しかし、エースは未だ黙り。


…ラウの方はもう、淡化を切った事を忘れ、今はエースの機嫌にどうすればいいかを考えていた。



ラウ「………う…、ぁの………ご…、………あり、がとう…」


エース「!……」



最初は謝る言葉が先に出たが、声に出たのは、ありがとうの言葉…。

怒っている相手を、どうすればいいか分からない…経験した事がないラウが悩みきって出た言葉。



エース「………………はぁ…」



ぽんっ


ラウ「…うっ」



頭に乗っかった大きな手…。

それが撫でられている手であると、ラウの戸惑いが徐々に解消された。



エース「ったく…、お前捕まり過ぎ」


ラウ「う……」


エース「――…あんま心配掛けんなよ、」


ラウ「!」



…心配掛けんな。

父親がまだ生きていた頃、そんな言葉を掛けられた事は勿論あった。




………あった故に、これが、兄というものなのか…とどこかそう思ったラウ。


父親と似ていて、けれど温もりはまたどこか違くて…けれども、いつも助けてくれる存在。


しかし…、



ラウ「なん…で……?」


エース「あ?」


ラウ「なんで、エースは…ラウをたすけてくれるのだ…?」



兄という存在を知り、それと同時に生じた疑問。

子どもでも、会って間もない筈の人にこんなに良くされてしまえば、流石に疑問も出てきてしまうのだろう。



ラウ「エース…ほんとうは、かえらなきゃならないんじゃない…のか?」


エース「え?」


ラウ「…きのう、でんでんむし聞いてた」


エース「!」


ラウ「なの…に……、」



自分の為に、船には帰らなかった。 一緒に居たくないと言ってしまったのに…、



何で…?







エース「何言ってんだラウ、」


ラウ「え…?」


エース「あのな…そりゃ会って間もない関係だけどよ、俺はお前放っといて帰ったら、それこそ胸くそ悪ィんだよ」



関わっちまったら最後、放っとけねェって思っちまったらよ


それはもう、

他人なんて言葉じゃあねェって俺は思ってる。



エース「俺が好きでやった事だ…。 だから、一々疑問に持つな」


ラウ「――…」




ぎゅ…っ


ラウは、エースに抱きついた…。 安心が宿ったかのように、親でも何でもない人に、ラウは初めて身を寄せた。


エースもそれを受け入れるように、ラウを優しく撫であげていた。
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