創作 参

□物言う花
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オレの母さんは所謂“美人”らしい。

まあ、毎日顔を合わせる相手―――しかも母親―――を美人と言われても、正直ぴんと来ないというのが本音だ。

そんな母さんは昔、父さんの側近として身の上を偽り中学に通っていたことがある。

その頃はよく“学年5本指”なんて呼ばれていたらしいけど、今その話をすると決まって当の母さんは恥ずかしそうに顔を背け、父さんは父さんでそんな母さんを楽しそうに眺めては一人口端に笑みを浮かべているから、そんなこんなで結局オレは詳しいことを聞けずにいるんだけど、まあ偶然町で母さんを見かけたクラスの奴らが勝手に“美人だ、羨ましい”なんて騒いでいるだけだから、正直オレには関係がない―――。


「あら、おかえりなさい」

「―――うわッ!」


門を潜るなり竹箒を手にした母さんが突然顔を出すから、今の今まで思案していたオレは大袈裟なくらいに身体を退いてしまった。


「おかえりなさい」

「た、ただいま・・・」

「ふふっ。どうしたの?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」


母さんは口元に手を当て、クスクスと笑う。


「うん、ちょっとね」


先の話も別に本人に言うことではないと思案の原因に頭を掻けば、対する母さんは不思議そうな顔をしながら竹箒を柱に立てかけた。


「今日も暑いわね・・・」

「うん」


こうして見ると確かに綺麗、なのかも知れない。

癖一つない長い濡羽色の髪に、雪のように白い肌。

蒲公英色の瞳は凛とした輝きの中にも確かな穏やかさが宿っていて、見慣れているにも関わらず合うと不思議な感覚を覚える―――と、組の皆は口々に言う。

まあ、姿は普通の人間と大差ないけれど、オレや父さんと違って母さんは生粋の妖怪だからなんら可笑しなことはないんだけど。


「ハッとしたりボーッとしたり・・・珍しい」

「え?・・・あ、ごめん、ちょっと考え事してて・・・」

「・・・大丈夫?」


小さく首を傾げ、母さんは微かに眉を下げた。


「・・・」


その仕草に、オレは小さく溜息を吐く。


「・・・大丈夫だよ、母さん。オレは父さんと違って“妖怪はいいやつだ!”なんて、人前で言ったりしないから」

「ふふっ。・・・でもお父さんもお父さんなりに、妖に誇りを持って―――」

「知ってる」


笑い話として語られる、父さんの過去。

完璧な共存が永劫目指すべきものだからこそ、オレたちはそれをしっかりと胸に焼き付けておかなければならなかった。


「大丈夫だから」

「・・・そう」


オレの返事を聞いて酷く安堵したように笑う母さんに、あぁきっと二人はオレが知らない限りなく長い時間を、懸命に生きてきたんだなって思った。


「オレは四代目を継いで、奴良組の力をもっと大きなものにする」

「・・・」

「だから安心して。オレは一人じゃない・・・組の皆も、母さんも、何より三代目だっているんだから」

「ッ、」


ちょっと臭かったかな、なんて頬を掻けば、僅かな逡巡の後に小さく首を振った母さんの髪が、静かに風に流れていった。








 

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