創作 参
□手中、存外に暗転
1ページ/1ページ
「お戯れ・・・ですか?」
「・・・本当は、気づいているんだろう?オレの―――」
「私はあなたの下部ですから」
「・・・逃げるのか?そうやって、いつも―――」
「逃げる?」
肩にかかった熱の篭った指先を、つららはやんわりと解いた。
「人聞きの悪い・・・。こうして嗾けるのはいつもあなたではありませんか、リクオ様。それを逃げるなどと・・・私は逃げた覚えなどありませんよ」
「なら―――」
「そうですね。もしこれを戯れでないと仰るのならば、あの人間の娘を―――、・・・いえ、なんでもありません・・・失言でした。では私は仕事がありますから、これで失礼を―――ッ、!」
「どうすればいい」
「リクオ、様・・・?」
「人間の娘を―――カナちゃんを、どうすればお前はオレを信じる」
握られた手首が軋む。
真っ直ぐに向けられた視線は、痛いくらいに感情を剥き出しにする。
けれどもその音は、つららの耳朶に響かなかった。
「・・・人も妖も、隔てなく接するあなたが―――それが我々が守るべき主、奴良リクオ様です」
「組のことなんか聞いちゃいねぇ。オレが聞いているのはお前がどう思っているかだ、つらら」
「・・・わ、たしはッ、」
だって皆が囃す。
まるで抗う自分が、規矩を反しているかのように。
「私は逃げません」
身を翻しても、手を伸ばせば届く距離に在る。
「今までも、これからも・・・」
視線を逸らしても、巡らせれば合わせられる距離に在る。
「ずっと、お側におりました」
手を伸ばさないのは。
視線を合わせようとしないのは。
「あなたですよ」
全てを。
「つららッ―――」
導けるほど、私は強くないから。
「おやすみなさいませ」
「つららッ!!」
だから追ってきて。
この手を掴んで。
視線を合わせて。
でないと―――。
コワレソウ。
了