創作 参

□手中、存外に暗転
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「お戯れ・・・ですか?」

「・・・本当は、気づいているんだろう?オレの―――」

「私はあなたの下部ですから」

「・・・逃げるのか?そうやって、いつも―――」

「逃げる?」


肩にかかった熱の篭った指先を、つららはやんわりと解いた。


「人聞きの悪い・・・。こうして嗾けるのはいつもあなたではありませんか、リクオ様。それを逃げるなどと・・・私は逃げた覚えなどありませんよ」

「なら―――」

「そうですね。もしこれを戯れでないと仰るのならば、あの人間の娘を―――、・・・いえ、なんでもありません・・・失言でした。では私は仕事がありますから、これで失礼を―――ッ、!」

「どうすればいい」

「リクオ、様・・・?」

「人間の娘を―――カナちゃんを、どうすればお前はオレを信じる」


握られた手首が軋む。

真っ直ぐに向けられた視線は、痛いくらいに感情を剥き出しにする。

けれどもその音は、つららの耳朶に響かなかった。


「・・・人も妖も、隔てなく接するあなたが―――それが我々が守るべき主、奴良リクオ様です」

「組のことなんか聞いちゃいねぇ。オレが聞いているのはお前がどう思っているかだ、つらら」

「・・・わ、たしはッ、」


だって皆が囃す。

まるで抗う自分が、規矩を反しているかのように。


「私は逃げません」


身を翻しても、手を伸ばせば届く距離に在る。


「今までも、これからも・・・」


視線を逸らしても、巡らせれば合わせられる距離に在る。


「ずっと、お側におりました」


手を伸ばさないのは。

視線を合わせようとしないのは。


「あなたですよ」


全てを。


「つららッ―――」


導けるほど、私は強くないから。


「おやすみなさいませ」

「つららッ!!」






だから追ってきて。

この手を掴んで。

視線を合わせて。

でないと―――。






コワレソウ。








 

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