創作 参

□記憶の檻
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「―――ッ、!!」

「あ・・・」


伸ばしたかけた手をすんでのところで引っ込めた。

残されたのは驚きに見開かれたつららの眼差しと、彼女の肩口に舞った一片の花びら。


「ごめんッ、」


右の指先を、きつく左のそれで握る。

言って自分の言葉が弁明染みたと感じるのは、それが全ての起因であると知っているから―――。


「あ、・・・も、申し訳ありませんッ」

「いや、ボクも―――」


そして互いに譲歩し合うこの姿勢が、あの日から何よりも痛かった。


「・・・ごめんね、つらら」

「・・・リクオ様」


きっと気づいている。

決して言葉に出さないこの胸の内だけれど、今もこうして無言でコンクリートを見つめるボク達は―――。


「手、つないでいい?」

「へ?・・・あ、はいッ!」


静かに左の戒めを緩めて、右の指先をそっと真っ赤な頬のつららに絡めた。


「・・・冷たいね」

「はい」


当たり前のことを今更のように呟くボクの言葉を、それでもつららは笑わず聞いてくれる。

“件”の予言から数ヶ月が経ち事態は沈静しても、それらが残した爪痕がボクらに復する兆しを見せてくれることはなかった。


「・・・ごめんね、つらら」

「・・・リクオ様?」


道を尋ねられ、答えた。

ただそれだけの情景が、巡らせれば今も鮮明に蘇る。

向けられた敵意。

飲み込めない現状。

背中を向ける恐怖。


(え?どこ?どこ?)

(えっと・・・だから―――)


よく知る手を伸ばした、はずだった。

だがそれに返ったのは突然の暴悪。


「・・・」


それでも。

例えそれに過敏に反応し鋭い眼光を飛ばそうと、彼女は笑うのだろう。


「リクオ様」


ボクの隣が、神経を張り詰める場所であってもきっとつららは変わらず笑う。


「リクオ様がご無事でよかったです」


と―――。


「つらら・・・」

「さあ、行きましょう?リクオ様」

「・・・、―――そうだね、帰ろうか」


―――そうか。

そんなキミだから、ボクがボクでいられるんだ。


「・・・ありがとう、つらら」

「リクオさ―――ハゥワッ!み、見てください、リクオ様!アイスクリーム屋さんに人集りが!!」

「え、ちょッ・・・つらら!?」


だからずっと、ボクの隣で笑っていて―――。








 

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