創作 参

□心優しいアナタに教えを請う
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好きなの。

大好き・・・。






朝日が眩しい。

鏡に映った泣き腫らした瞳は真っ赤に染まり、酷く重かった。

今日もまた、何も変わらない一日が始まる。


「・・・ッ、」


無意識に、洗面台に突いた手に力が篭った。

いっそ、アナタを嫌いになれれば私は楽になれたのかな・・・?


「・・・違う」


弱虫な私に、それでもアナタに惹かれて仕方がない私にそんなことできるはずがない。


「嫌いになんて・・・なれないよッ・・・」


だって、こんなにも好きなんだよ?

ずっと近くにいられるんだって、思ってたのに・・・。


「ッ、」


見てよ。

私を見てよ。

お願いだから、・・・私だけを見て。






「つらら」


それでも今日も変わらずアナタの声を拾う、この耳が憎い。


「リクオ様!」


希望を捨てきれずアナタの姿を追う、この目が憎い。


「お迎えにあがりました〜!」

「ありがとう。じゃあ帰ろうか?」

「はい!」

「今日は一段と暑かったね、大丈夫だった?」

「はい。氷を持ってきて正解でした!」

「なるべく日陰にいるようにするんだよ?それと、くれぐれも無理はしないこと。少しでもおかしいと思ったらすぐに青や首無に報告するんだ」

「・・・、・・・はい」

「・・・つらら?」

「あ、いえッ。・・・私は大丈夫ですから、リクオさ―――、くんは学業に専念なさってください」

「・・・分かったよ。でもボクはお前が心配なんだ、それだけは忘れないで」

「・・・はいッ!」


聞いて、見ているだけでいいと思えない私はきっとどうかしてるんだ。

この想いを告げたら最後、私達の関係は終わりを告げると分かっているから。

だから言えない。

無理矢理に、押し殺すの。

笑顔で隠すの。


「―――カナちゃん?」

「え?」

「どうしたの?なにかあった?」

「・・・」


終わらせるのはアナタじゃない、この私。

いつまでも今の関係じゃいられない。

それなのに側にいたいと、あの子になりたいと思ってしまった。

私だけを、好きになってほしいと―――。


「なんでもないよ!」






「それでね、横谷先生がみんなに言ったの」

「そうなんだ、だから島君あんなこと言って・・・そっか、知らなかったな」

「でしょ?」

「―――リクオくん」


弾む私とリクオくんの会話を遮るように―――違う、敢えて遮らないように潜められた声音で、不意に及川さんが言った。

そしてさり気なくそっと、リクオくんの身体を押す真白い手。

見れば、リクオくんの足元には脇の工事現場から転がってきたらしい廃材が落ちていた。


「・・・」


私達の話に相槌を打ちながらも、及川さんの目は常に私の知らないところへ向けられている。

それを、痛感させられる日々。

分かっていても追いつけない。

私達の間にあるこの明らかな差が、私と彼の間にある距離をどんどん広げていくんだ。


「カナちゃん、また明日」

「さようなら、家長さん」


いつもの分かれ道。

淡い期待を持って振り返ってみても、いつだってあの視線は私へ向かない。

―――だから決したの。

鳴り響いていた警鐘に、私はいつだって気づかない振りをしてきた。

追えば、きっと後悔する。

分かっていたのに―――。


「・・・ッ、!!」


衝動のまま、私は一気に駆け出した。

点滅する歩行者信号。

小さく聞こえたクラクションをかわして、必死に二人の姿を追う。


「ハッ、・・・待、って、リクオくんッ・・・!」


後悔は、後には立たない。

それは警鐘を鳴らし続けた私自身を裏切った私への、罰・・・。






「ん?」

「あら、何か騒がしいですね・・・」

「うん。でも今日は確か、寄合はないはずだけど・・・」

「えぇ・・・、あ!」

「つらら?」

「そういえば昨日の晩、小妖怪達が花火をやりたいと言っていたような・・・」

「あぁ、それか・・・」

「恐らく」

「・・・また、賑やかになるね」

「えぇ。ですがリクオ様のお勉強の邪魔にはならぬよう、私からしっかりと―――」

「そういうことじゃないよ、つらら」

「・・・へ?」

「今日は帰ったらつららとゆっくりしようと思ってたんだよ。二人でね」

「・・・リクオ様?」

「まぁ、ここは我慢して、夏らしくみんなで花火をしようか」

「はい!」

「でもその前に―――」

「リク―――、んんッ!!」

「・・・このくらいは、いいよね?」

「・・・ハァ、リクオ、さま・・・?」

「さあ、帰ろうか?」






ねぇ、教えてよ。

どうすれば、アナタを忘れず楽になれるの?








 

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