創作 参

□きっと僕らはそんな世界を生きている
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「これじゃ動けないわ」


背後から回った腕に身体を拘束されながら、つららはクスクスと笑った。


「お呼びなんでしょう?私を」

「・・・あぁ」

「なら行かなくちゃ」

「・・・行かせない―――」

「―――なんて、言わないでしょう?彼は私の主だけれど、あなたの主でもあるんだから」


つららは全てを見透かしたように笑う。


「余裕だね、随分と」

「余裕じゃないわ。臍を曲げられて、郭でも行かれたんじゃ―――ッ、!?」

「・・・この時代に郭?」

「・・・なあに?この手は」


頭上で括られた手首を、つららは恨めしげに見遣った。


「うん?」

「だから、こんなことをしていたら行けないって―――」

「行かなければいいよ」

「・・・首無、いい加減に―――んッ、」

「・・・問題を、起こそうか」

「・・・貞操の?」

「・・・なんでもいいよ。つららが、側近頭の役から降りられるなら」

「―――とも、言わないでしょう?」

「・・・」


言葉を失う首無を、宙を舞う頭ごとつららはそっと抱き寄せた。


「そんなあなただから、私は好きになったんだもの」

「・・・ハハッ。やっぱり、適わないな」

「・・・適わないのは私も同じよ。昨日よりも今日、今日よりも明日、あなたに惹かれて―――」

「つららッ、」

「・・・首無?」

「やめてくれ。本当に、離せなくなる」

「・・・ごめんなさい」

「・・・行ってきて?そしてすぐに、戻ってきてくれ」

「・・・」


トン、と軽く背中を押される。


「・・・いってきます」

「いってらっしゃい」


隔たる唐紙一枚が、重い鉄壁のようにさえ思える。

僕らが生きるのは、きっとそんな世界―――。






「・・・ふふっ、くすぐったいわ」

「・・・」

「・・・首無?」

「考えたんだ」

「・・・なにを?」

「問題も、降任も、できないけど諦めたくもない」

「・・・」

「言うよ、明日。・・・リクオ様に」

「首無・・・」


生半可な気持ちでは生きてゆけない世界。


「好きよ、首無・・・」

「ああ。俺も、愛してる」






きっと僕らは、そんな世界を生きている。








 

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