創作 参

□ありふれた久遠を君と
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「なッ―――!・・・で、でしたらリクオ様も家長と―――」

「だからあれはボクじゃないって言ってるだろ!?カナちゃんが憧れてるのは夜のボクだよ!」

「夜だってリクオ様に違いないじゃないですかぁ!!」

「そう言うつららだって島くんから、及川さん及川さんって言われてるじゃないか!」

「あ、あれは彼が勝手に―――」

「だったらボクもそうだよ!カナちゃんが一方的に夜のボクに憧れてるんだ!ボクはなんとも思ってない!」


日曜の真昼間から繰り広げられている二人の言い合いに、部屋の前を通り掛かった若菜があらあら相変わらず仲良しねぇと穏やかに笑う。


「では私は今日の活動はお休みさせていただきます!」

「ならボクも行かないよ!」

「リ、リクオ様が行かれなくてどうしますか!せっかく皆さんが誘ってくださったのですから!」

「それはつららだって同じだろ!?」

「わ、私は違います!私はあくまでリクオ様の側近として―――」

「・・・ふうん。じゃあつららは、ボクがつららの知らない所でカナちゃんと仲良くしてもいいんだ?」

「う。そ、それは・・・」


と、今度は昼餉の準備に炊事場へと向かっていた毛倡妓と首無が互いに顔を見合わせ苦笑した。


「なんだかつい最近、同じような会話を聞いた気がするわ・・・」

「・・・奇遇だな、俺も全く同じことを思っていたところだ―――」


毛倡妓と首無は頷き合う。


「・・・分かりました、もう何も言いません」


つららの髪がゆらりと舞う。


「・・・リクオ様の分からず―――」

「首無!!」

「あ、あぁ・・・!」


毛倡妓の声に首無は慌てて首を振った。

無礼を承知で、二人は主の部屋に飛び込んだのだ。


「つらら!!」

「リクオ様!!」


バンッ!!と襖が桟に叩き付けられ甲高い音が鳴ったが、構わず二人はそれぞれに空々しい笑いを振り撒く。


「まあまあ、二人とも落ち着いて―――」

「そうですよ、つららもリクオ様も。せっかくの休日なんですから楽しんできたらいかがですか?」


明らかに上擦っている首無の声に、毛倡妓は密かに溜息を吐いた。


「・・・ねえ、今ボク忙しいんだけど」

「そうよ!これは私とリクオ様の問題なの!二人は口を挟まないでッ!」

「・・・」

「・・・」


二人はリクオとつららの言葉に押し黙った。

他人が被害を被らないのならばそれでいい。

寧ろ誰が好き好んで他人の痴話喧嘩に進んで首を突っ込むものか。

たまに本家を訪れる牛鬼や鴆も驚くほどの長期に渡る二人の喧嘩は勃発したら最後、静まり返る夕餉の席や活気の無い夜行に組員達が何度涙したか知れないからこうして敢えて言っているのだ。

“結局は好きなんだろう”と・・・。

だが冷静さを欠いている二人にそんな言葉が通用するはずもなく・・・。


「首無はどっちの味方なの?もちろんボクだよね?」


主ににっこりと微笑まれ、首無はヒッと息を呑んだ。


「毛倡妓は私の気持ち、分かってくれるでしょう!?」


飛び掛からんばかりの勢いで詰め寄られ、今度は毛倡妓も同じように息を呑む。






だが―――。


「楽しかったですね、リクオ様♪」

「うん、行ってよかったね」

「清継くんに感謝しないといけないですね」


夕刻に襖をそろりと開き中の様子を窺えば、そこには仲睦まじい二人の姿。


「でもやっぱり、つららがいてくれたから楽しかったんだよ」

「そ、そんなッ・・・私はリクオ様がいてくださったらそれで―――」


互いに頬を赤らめ謙遜し合う姿からは、今朝の彼らのやり取りなど微塵も想像できなかった。


「これからも・・・ずっと一緒にいようね?つらら」

「はいッ!私もずっと、リクオ様と一緒にいたいです!」






それはきっと、ありふれた光景―――。








 

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