創作 参

□花冷え
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満開の桜が咲いている。

時は夕刻。

妖姿のリクオは僅かに感じる春寒に羽織を纏うと、夕餉の支度に忙しい女中達が行き交う廊下を自室へ向かい歩いていた。


「あぁ、待って!そんなに急いだら危ないわ」


そんな時、不意に庭先から声がしてリクオは緩慢な動きで視線を投げた。

見ればそこには、小妖怪達と戯れる側近の姿がある。


「つら―――、」


だがそこまで言いかけて、リクオは開きかけた口を噤むと静かに庭を一眺めできる縁に腰掛けた。


「次はなにをして遊ぶの?」


つららが問えば、彼女の周りに集う妖怪達が一斉に挙手をする。


「鬼ごっこ!」

「それはだめだよ!雪女が遊べないだろ」

「あ、そっか」


無邪気に交わされる言葉に、終いはしゅん、と小さく頭を垂れる小妖怪。

木の幹に背中を預けているつららは、そんな様子に穏やかな笑みを浮かべていた。


「そうね・・・じゃあ、お話にしましょうか」

「・・・お話?」

「リクオ様の?」

「やったぁ!」


つららの言葉にワアッと歓喜の声があがる。

彼らが夢中になっているのは、組頭が幼少の頃に大切にしていた絵本。

それは先日、つららが彼の部屋を掃除している時に見つけたものであり、懐旧していたところを目にした小妖怪達の興味を一瞬にして誘っていったのだった。


「ふふっ。今持ってくるから、ちょっと待ってて―――」


そこまで言いかけて、つららは不意に言葉を切った。

くるりと踵を返した先、縁台にあるのは見慣れた姿だった・・・。


「リクオ様」

「よう、つらら。寒くねぇか?」


言いながら、下駄を脱いで縁に上がるつららの肩口にリクオはそっと手を触れた。


「はい。重ね着をしていますから大丈夫です」


雪女だから、とは返さない。

そんなリクオにつららは淡い笑顔を浮かべると、静かに腹を摩りながら答えた。

すると彼も安堵したように頷く。


「偶然ですね、丁度お部屋に向かおうとしていたところです」

「本だろう?」

「えぇ。どうやら大分気に入ったようで・・・」

「あぁ、別に構わねぇぜ。それだけ使われれば本望だろうからな」

「ふふっ、そうですね」


つららは口元に手を当て、クスクスと笑った。


「つらら」

「はい?」

「・・・部屋で―――」

「ふふっ。承知しています」


言いかけたリクオの言葉を敢えて遮り、つららは頷いた。

リクオはぱちりと瞬きを繰り返す。


「リクオ様も久しぶりに・・・どうですか?」


棚に並ぶのは有名な童話の数々。

その中の一冊を引き抜いて、つららは小首を傾げて見せた。


「・・・そうだな。たまには悪くないかもな」

「えぇ。・・・この子にも、聞かせてあげてください」


つららは冗談のように笑って腹を撫でる。

優しく、確かな膨らみをもったそこを・・・。








 

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