創作 参

□偽りの代償
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「やめて」


流れる空気は重い。

時は無限のようにさえ感じる。


「・・・お願い」

「ならいつもみてぇに俺を凍らせてでも、・・・今すぐここから出ていけよ」

「・・・ッ、」


惚れた腫れたなど、己のことだ、自分が一番よく知っている。


「牛頭―――」

「なぁ、雪んこ」


顎先を掠めた彼の指先は、冷たさを知ることなく空を切った。

ぱたりと、そのまま畳に落ちる。


「無理強いはしたくねぇ」

「ッ、」

「分かるだろ?」

「・・・」


顔を合わせれば憎まれ口ばかり。

そんな彼はこんなにも優しかったのだと、今更気づいた契機につららは胸が痛むのを感じた。


「ごめん、なさい・・・」

「一度忠誠誓ったら脇目も振らなきゃ余所見もしねぇ、・・・立派だな」

「・・・ご、ず―――」


つららは僅かに目を見開いた。


「・・・悪い、そういう意味じゃねぇ」


だがそう言ったきり視線を落としてしまった彼の言葉は決して彼女を責めるようなものではなく、ただ自分には真似のできなかったそれに素直に敬慕を示すものだった。


「牛頭丸・・・」

「・・・」

「牛頭丸・・・?」

「・・・」


そして、切羽詰まったようにつららは口を開く。


「まだッ―――、・・・まだ、リクオ様と・・・話をしていないから・・・」

「・・・」

「きちんとけじめ、つけなくちゃ・・・」


胸に手を当て、つららは悲痛な面持ちで唇を噛んだ。


「・・・分かってる」

「ごめんなさい・・・」

「・・・」

「・・・ねぇ、牛頭丸―――ッ、!?」

「謝んな」


抱きしめられたここは、温かい腕の中。


「ご、ず―――」

「謝るなよ・・・」


希望なんて、溢れるほどにある。

全部、今からだ。


「それでお前と―――氷麗と一緒にいられるなら、俺はいくらだって待つ」

「牛頭、丸・・・」

「ったく・・・白けるからそんな顔するんじゃねぇよ」

「あ、あんただって同じような顔してるじゃない!!」

「俺はそんな顔してねぇよ」


相好を崩し、牛頭丸は歯を見せ笑った。


「―――ッ、ちょ、牛頭丸ッ!?」


声をあげ、つららは離れていく背中を追いかける。

いつか、隣を歩くその日まで・・・。








 

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