創作 参

□今を生きた者
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「あぁ、ちょうどよかった。つらら、リクオ様を見なかったか?」


廊下を向こうから歩いてきてそう問うのは首無。


「リクオ様?」

「あぁ、明日の総会について話しておきたいことがあるんだが・・・」

「リクオ様なら隣町の寺院よ。・・・なんでもそこのご住持が総大将の古くからのお知り合いで、奴良組のシマ拡大に尽力くださるとか・・・」

「そうなのか?・・・いや、でも待てよ?さっきそこで三羽鴉に聞いた時はそんなこと一言も―――」

「え?またなの!?」

「・・・つらら?」

「あ、ごめんなさい。最近、リクオ様ったら行き先も告げずに出ていくものだからこっちも気が気じゃないのよ。四六時中見張っているわけにもいかないし・・・」

「そうなのか?あぁ、でも確かに最近よくこうして姿が見えなくなることがあるな・・・」

「でしょう?私も側近頭としてしっかりしないといけないんだけど・・・」


口内に溜まった吐息は溜息となって吐き出される。


「そういうわけだから、戻られたら伝えておくわね」

「あぁ、頼む」

「あ、そうそう。リクオ様、来週辺りに一度遠方に出るらしいわ。用があったら済ませておくように皆に伝えておいて?」

「・・・無理をなさらなければいいが」

「それを支えるのが私達の仕事でしょう?」


ええ、本当に・・・。


「そうだな。ありがとう、つらら」

「どういたしまして」


にっこりと笑って、その無垢すぎる背中を私は見送った。

そしてそのまま、足は自室へと向かう。


「ただいま―――」


そう、本当に無垢・・・。


「―――リクオ様」

「・・・つらら」

「またそのようなお顔をされて・・・。首無が探していましたよ?なんでも明日の総会について話があるとか・・・」

「そッ、それで首無はなんて―――」

「それはご自分でお聞きになってくださいな。私が尋ねたら不自然でしょう」

「それは・・・」

「安心してください。きちんと、帰してさしあげますから・・・」

「―――ッ、ねぇつらら!お前は何か勘違いしてる!カナちゃんとは本当に何もないんだッ!確かにあの日、お前を置いてカナちゃんの所に行ったことは謝るよ!でもあれだってちゃんとした理由が―――」

「リクオ様」


やっぱり。

伝わっていないのね。


「どうでもいいんです、そんなこと」

「ッ、」

「今、リクオ様は私の側にいてくださる・・・それだけでいいんです」


そう。

これ以上の幸せはきっとどこを探したって見当たらない。

無い。


「いッ・・・今までだって同じじゃないか!ボクはずっとつららの側にいる!つららの側を離れないッ!!」

「・・・では、証を見せてください」

「え・・・」

「この先、未来永劫、何があっても雪女の側を離れぬと」

「つ、らら・・・」

「誓ってください、リクオ様」


そっと寄り添って。

知った香りに顔を埋める。

トクン、トクンと聞こえてくるこの音は―――ナニ?


「つらら・・・」

「・・・困らせてしまいましたね」


だって困惑しているもの。

眉は下がって、目は見開かれて、言葉を紡げぬ唇は震えて―――。


「・・・つららッ」


だから、この瞬間が大好きなの。


「つららッ、待て・・・行くなッ!!」

「・・・リクオ様?」

「頼むからッ―――」


もっと縋って。

追いかけて。

求めて。

モトメテ。


「・・・何度も申し上げているのに。・・・他人の色恋に口を挟んではいけませんよ?リクオ様」

「つら、ら・・・」

「さぁ、行ってあげてくださいな。無い首を長くして待っていますよ、きっと」

「つらら、行くなッ―――」

「ふふっ、そんな必死にならなくても・・・大丈夫ですよ。私が愛しているのは・・・あなただけですから」


首筋の色濃い鬱血痕を隠すように、私は襟元を直した。


「いい子にしていて、くださいね?」

「つらら・・・」


どんなに懇願されたって足りないの。

足りない、足りない、足りない。


「タリナイ・・・」


襖を開ける瞬間、どうしようもなく緩む顔を私は必死に引き締めた。


「あ、首無!ちょうどよかったわ、リクオ様が―――」






気づいたの。

楽になんてなれない。

我慢なんてできない。

トメラレナイ。









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