ちよこれいと

□文芸部員と、
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「よし、かんっぺき!!
雨音どうよ?」


「わぁ、ありがとうございます。
でも、…なんで和くんは、こんなにも器用なのですか?」



我が家のリビングで、和くんの足の間に体育座りしていると、肩から綺麗に編まれた三つ編みがこぼれた。

何故、私の幼なじみさんはこんなにも器用なんでしょうか?
今日のは、まだ凝ってない方ですが、凝っていると、
「貴方は何処のヘアメイクさんですか?」とお聞きしたくなるレベルです。
…和くん、生まれてくる性別間違ってしまったのでしょうか?


「でも、なんで三つ編みなんですか?」


なんとなくですけど、勇気がでる髪型ってツインテールとかお団子とかそんなイメージがあったのですが。
三つ編みは、大人しいイメージですよね?


「ん?いやー、やっぱ文学少女は三つ編みでしょ?
いかにもって感じだし、雰囲気もばっちしだし!」


なるほど、確かに一理あります。
文学少女=三つ編みって王道というか、鉄板ですよね。
でも、私が文学少女っておこがましい…、私なんてまだまだです。
和くんがふわふわとした手つきで髪を触る。
…たまに頬に触れる手がこしょぐったい。


「雨音、髪結んでくれる?」


和くんとお話ししていると、ひょこっと顔を除かせた雫ちゃん、頷くと雫ちゃんはとことこ部屋に入ってきて私の前に座った。

和くんに一言声をかけ、膝立ちになると、雫ちゃんの髪を櫛でとかす。
さらさら揺れる黒髪が羨ましくないといえば嘘になる。


「雫ちゃん、今日どうします?」


「今日は、朝から練習あるから、動きやすいのがいい」


「そうですか。では、ポニーテールでよろしいですか?」


「うん」


こくんと雫ちゃんが首を縦にふったので、今日はポニーテールです。
雫ちゃんは弓道をしているので、髪を結ばないと視界に入って邪魔なんだそうです。
だから、雫ちゃんの髪型は一番動きやすくて視界が広いポニーテールが主です。


「…雫さんさぁ、髪長くて邪魔なら切っちゃえば?」


自分で結べないんでしょ?と、どこかむくれている和くんが雫ちゃんに言うと、
雫ちゃんはツンっと顔をそらして聞こえないフリをしている。
きゅっと髪をゴムで縛り飾りで白いリボンを結ぶ、小さく溜め息をつく。
相変わらず、お二人は仲が悪いですねぇ。

それより、


「か、和くんごめんなさい…。
毎日毎日髪結んでもらちゃって…、迷惑でしたよね…」


「は?え、いやちがうよ!!?雨音言ったんじゃなくて…!
てか、全然迷惑じゃないし!むしろ、ご褒美みたいな、いてっ!!?」


「なぁに 、言っちゃてんのかなぁ?和成?
それは、オレへの当て付けかなんか?」


慌てて弁解する和くんの後頭部に、スパァンっと陽くんが持っていた鞄がクリティカルヒットする。
ぐらりと体勢が崩れた和くんがこちらに倒れてきました。

ん?こちらに?


「か、和くんちょっと待ってくださ、きゃぁっ」




い、痛いです…。頭うちました。
上に乗っている和くんが唸っています、…相当痛いんですね。
すいません、急のことだったので受け身取れなくて…。
とりあえず、雫ちゃんがよけてくれて良かったです。
下敷きにしちゃったら、雫ちゃん痛いですもんね。


「和くん、大丈夫ですか?」


「ってぇ〜、陽人さん容赦なさす…!!」


あれ?思ったより距離が近かったです。
仰向けに倒れた私に、和くん覆い被さるように倒れこんでいるので、
和くんが顔を上げたら、ほとんど顔同士の距離がありません。


「雨音!悪ぃ、重いよな!すぐ退くから!!!」


かぁっと和くんの顔が真っ赤になり、急いで私の上から退くと、私の手を引き立ち上がらせてくれる。


「雨音、ほんとゴメンな?
その、すごく顔近かったし」


「大丈夫ですよ。和くんですから」


そう言うと、和くんが顔を赤らめ口をもごもごとうごかした。



「…それってさー、俺だからいいって自惚れていいの?
それとも、俺男として見られてない?」


「…?和くん?」


「あ、なんでもない!気にしてないならいいよ!」


何を言っていたのか聞こえなかったので、首を傾げたら和くんに気にしないでと頭を撫でられた。

んー、なんか誤魔化された気分です…。


「和成?お前相当生き急いでんだな?
だから、オレの前でそんなこと出来るんだろ?」


陽くんが何故か満面の笑みで手を握り拳にしている。
それを見た和くんが赤かった顔を青くして口を開いた。


「いやいや!これは、陽人さんの責任っしょ!?」


「へー、しかもオレのせいとか言っちゃう?
なめてんの?和成?」


「だって本当のことじゃないっすか!?」


あぁ、なんかケンカが始まりそうです。
でも、時間が…。


「お二人とも、そろそろ家をでる時間ですよ。
あと、陽くんは和くんをいじめないでください」



あ、やべ。そう言いながら和くんは自分の家に鞄をとりに戻り、
陽くんは部屋に制服に着替えに行く。

あ、ちなみに和くんのお家はお隣さんです。
少女マンガにありがちな、窓からお互いの部屋に行き来出来ちゃうレベルの近さなのです。
私的に会いたい時にすぐ会える距離はすごく嬉しいです。


そういえば何故陽くん下はスラックスだったのに、上はTシャツだったのでしょうか?

んーと考えていると、後ろから柔らかいものに引き寄せられる。
まぁ、雫ちゃんですけどね。


「どうしました?雫ちゃん?」


「…充電」


ぐりぐりと首もとに頭を擦り付けながら、そう言えばと雫ちゃんが口を開いた。


「夕輝は?まだ寝てんの?」


「いえ、もう学校ですよ。
今日は朝から自主練習をするそうです」


我が家の妹ちゃんは頑張りやさんですねーとほのぼのしてると、雫ちゃんが
「私も、もう行くね」と離れた。


「あれ?雫ちゃん、今日の朝の練習早いのですか?」


「ううん、いつもと同じ時間。
でも、自主練したら雨音、誉めてくれるでしょ?」


お弁当と差し入れありがと、行ってきます。
私の頬に軽く唇を落としてから雫ちゃんは、お弁当と差し入れをもって学校に行った。
少し惚けていて、反応が遅れながらも、いってらっしゃいと声をかけると振り返って小さく手をふりかえしてくれました。
はぁ、ほっぺにちゅーは毎日されていますが、いまだになれませんね。
そんなことより、うちのお姉ちゃんは天然タラシです、イタリア人の曾お祖父さんそっくりです。
まったく、お外でもほっぺにチューしてるんですかね?
あ、そう思ったらすごく心配になりました。


「…大丈夫ですかね?」


「雨音?ぼーとしてどしたん?」


「あ、和くん」


がちゃっとドアが開く音がして、振り返ると和くんがいました。
あ、わたしもカーディガンを着なくては…。
ソファに畳んでおいた和くんに頂いたカーディガンを羽織り、袖に手を通す。
やっぱり、大きいです、和くんってこんなに大きいのか。
…少し悔しい、はやく成長期こないですかね。


「雨音、暑くないの?俺なんて学ラン着る気もしないのに」


「そうでもありませんよ、これも慣れですかね?
それに、日焼けすると赤くなっちゃいますし…」


赤くなるだけではなく、熱もでるので気をつけなくてはいけません。
よしっとボタンを留め終えて、和くんにローテーブルにおいて置いたタッパーと水筒を渡す。


「和くん、これ。レモンの蜂蜜漬けと、ドリンクです」


「お、ありがとな!」


「いえいえ、和くん、意外と無理しがちですから。
こういうのあると、休憩してくれるでしょう?」


ね?と、首を傾げれば和くんの顔がまたぽんっと赤くなる。


「和くん?風邪ですか?」


背伸びをして和くんのおでこに触ると、さらに顔が赤くなる。
えぇっ!?どうしたんですか!?


「か、和くん?大丈夫ですか?」


「いや、うん気にしないで!!
風邪じゃないから!ほんと元気だし!!」


あわあわと目を回しながら話す和くん。
触った感じ、熱くはなかったので熱はないみたいですが。


「雨音〜、ネクタイむすん、で…。
和成?」


「あぁぁああ、陽人さん!!誤解しないで!
ただの、確認だから!!」


「?誤解も何も、熱測っただけじゃないですか」


「体勢に問題があるの!!」


「ちょっ、なに?背伸び+上目遣いって!!ずるい、和成そこ変わって!!」


オレも、雨音に見上げてほしい!!とよく分からないことを、きゃんきゃんさわぐ陽くんを見てると、
わんちゃんを思いだします。
私は猫さん派ですが、わんちゃんも大好きです。

とんっと踵をおろし、陽くんの方に行き、首筋に手を当てる。
背伸びは疲れましたので、手を伸ばせば届く首です。
ぴくっと陽くんが動きましたが、気にしません。


「…陽くん、別に熱はないようですけど?」


「〜〜〜!!うちの妹マジ天使!!」


「ひゃっ」


ぎゅうと腕を腰に回され抱きしめられる。
いたいいたいと背中を叩けば、さらに力が入った。
あ、骨折れそう。ぼんやり思っていたらぐっと和くんに引きせられた。


「陽人さんストップ!雨音の骨が折れる!!」


「あ!ごっめん、雨音!!大丈夫?」


「けほ、正直、死んじゃうかと思いました」


咳き込みながら言うと、陽くんがごめんねとしょんぼりしてしまった。
まったく、このお兄ちゃんは…。
手に握っていたネクタイを取ると、陽くんの襟に通して結ぶ。
ぽけっとしてる陽くんに和くんと同じようにタッパーと水筒を渡す。


「はい、陽くん」


「あ、ありがと!雨音怒ってる?」


「怒っていませんよ。
あれも陽くんの愛情表現でしょう?
嬉しいとは思っても怒ることはありませんよ」


「〜〜〜!!い、行ってきます!!」


これは本当です。
そう笑うと、陽くんがかぁぁああっと顔を赤くして、リビングを飛び出していった。
…朝から元気ですね。


「…雨音、狙って言ってる?」


「?なにをですか?」


「あー、やっぱ無自覚かー」


頭を抱える和くんにどうリアクションしようかと考えていると、時間がぎりぎりなことに気づいた。


「和くん、本当に時間ぎりぎりですよ」


「あ?げ!本当じゃん!!」


二人揃って家を飛び出し、私は鍵を閉める。


「雨音!」


「あ、はい!」


自分に向かって伸ばされた手を掴み歩き始めた。
和くんの中学校の少し手前に帝光中学校があるので、一緒に行きます。
というより、和くんが私に気を使ってくれているんでしょうけどね。


「そういえば、雨音。最近変な手紙とか、物なくなったりとかしてない?」


「大丈夫ですよ。
あ、でもこの前…」


「この前?」



「あの、和くんから頂いた髪止め、なくしちゃったんです…」


「あぁ、あの硝子細工の?」


「はい」


淡い菫色のお花がついた髪飾り。
光りに透かすとキラキラしていて、可愛くってお気に入りで
大切にしてたんですけどね。


「ごめんなさい、和くん…」


「いいよ、雨音あれ気に入ってたろ?
すげー大事にしてたのも知ってるしな!」


「で、でも、」


「んー、じゃあ今度新しい髪飾り買いにいこうぜ?
そろそろ違う奴買いたかったから丁度いい!」


「はい、これでこの話お仕舞い!以後謝罪は受けませーん!!」なんて和くんは笑っているけど、
それは私が貰い物をなくしちゃった罪悪感を薄めるためですよね?

和くんは優しい。
ただの幼馴染みの私のことをこんなに大事してくれるなんて、本当にいい人です。


「和くん、いつもありがとうございます」


「…なんか言った?雨音?」


「へ!?えっと、何も言ってませんよ!」


き、聞こえてた!
もう一度言うのもなんだか気恥ずかしく、知らないふりして、顔を俯ける。

だから、和くんの顔が真っ赤だったことに気づく訳がなかった。




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