飴色ぷらとにっく

□1話
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ざぁ、冬独特の冷たく乾いた風が、黒いスカートを揺らす。
ふるりと肩を震わすと、ケータイゲームをしていた孤爪が「寒いの?」と顔をのぞきこむ。


「そ、そんなことありませんよ、大丈夫です」


いきなりのぞきこんできた瞳に、少し戸惑いながらも強がる。
そうすると、孤爪はじーっと音が出そうなほど見つめてくるので、なんだか居心地が悪い。


「あ、あの、研磨くん何かご用ですか?」


真っ直ぐ突き刺さる視線から、逃れようと顔を反らそうとすると、孤爪が口を開いた。


「嘘つき」


「ふぇ?」


「寒いなら、寒いって言えばいいのに」


そう言いながら、彼の右手が雨音の左手を握る。
指と指を絡ませるように繋ぐ、俗にいう恋人繋ぎである。
ひんやりと冷えた雨音の手と違い、彼の手はほんわり温かく、雨音の手をゆっくりと、溶かすように暖める。


「け、研磨くん?あの、私寒くないですよ?
だから、手を離し…」


先ほどよりも強い風が吹く。
冷たさが、無防備に晒された首から伝わり、雨音はくしゅんと小さくくしゃみをした。
それを見た孤爪はため息をつき、「寒いんでしょ」と言った。
雨音は、少し赤らんだ鼻を右手で押さえながら「そんなことないです」と恥ずかしそうに言い返す。

孤爪は少し考えてから、ふいっと顔をそらして、小さな声で言った。


「じゃぁ、おれが寒いから繋いでて」


さらりと風に揺れた黒髪から覗いた真っ赤な彼の耳を見た雨音は、ぽんっと顔を赤らめ、「は、はい」と俯いた。


お互いに顔を赤らめている、二人を見ながら周囲の人は頬を綻せる。
お母さんと歩いている小さな少女が二人を指さしながら「ままー、あのおねーちゃんたち、なんでおかおまっかなのー?」と聞き、
お母さんは優しい声で「ふふ、あのお姉さんたちはきっと恋をしているのよ」と答えた。
人を指でさしちゃ駄目よと少女に注意をしながら、親子は去っていく。

親子の会話がバッチリ聞こえてしまった二人は、また顔を赤らめる。
気恥ずかしい雰囲気に耐えられなくなった雨音は、鉄郎くんたち遅いですねと孤爪に話しかけた。


「わりぃ、お待たせ 」


噂をすれば、影である。
片手にコンビニ袋を下げた、黒尾が帰ってきた。

なんという、タイミングで帰ってきたのだろうか。
むしろ、タイミングを見計らっていたのだろうか?
まぁ、そんなわけないが。


「雨音、チョコココア買ってきたぞ」


「わ、ありがとうございます」


嬉しそうに、へにゃりと顔を緩ませ右手で受けとる雨音に、
「よく、そんな甘ったるい物飲めんな」というと、「美味しいですよ?」飲みますか?と差し出された
チョコココアを丁重に遠慮する。
因みに、チョコココアというのは、本来ホットミルクでチョコを溶かして作るホットチョコレートを、
ココアで溶かした、なんとも甘ったるそうな飲み物である。


「研磨も、ほれアップルパイ」


ん、と言いながらアップルパイを左手で受けとる研磨に黒尾は、
昔はもっと可愛げがあったんだけどなぁと、少しばかり切なくなった。
というか、どこのコンビニにアップルパイが売っているのだろうか。
因みに、今渡したアップルパイはマク○ナルドのアップルパイである。
近くに、マ○クがあって良かったと、思ったことはわりかし多い。





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