ガールズ ビー アンビシャス!!

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Side:雨音




「ふぅ…だいぶ片付きましたかね…」




少し、荷物を持ち込み過ぎたような気がしますが…
でも、これからここで一年近く生活するんだし大丈夫ですよね。
と、一人で納得する。
それでも、




「はぁ…」




別のことで溜め息が止まらない。
あぁ、どうして。




「どうして願書を書き間違えてしまったのでしょうか…」




とんでもなく初歩的なミスを、とんでもなく重要な所で犯してしまった。
本当は、アイドルコースでは無く作曲家コースに進学するつもりだったのに…!
しかも何で合格してしまったのでしょうか。いえ、こんな言い方はいけないですけど…

学園長さんに話しても取り合ってもらえませんでしたし…家族にも『せっかくだから、通ってみたら?』と見放されました。冷たいです。

しかし、本当に困りました。
私、絶対アイドルに向いていません。
歌もそんなに上手く無いですし、まともに踊れません。
でも、辞めるに辞めれないし…

考え込んでしまっていると、控えめに入り口のドアがノックされた。

? どちら様でしょうか?
あ、もしかしたら同室の方かもしれません。
もしそうだったら…少し、いえ、かなり緊張します。

そんなことを考えていると、ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。
鍵を持っているということはやっぱり、同室の方のようです。
そして、ドアが開かれた。




「えっと…た、ただいま…です…?」




少し躊躇いがちに入ってきたのは、可愛らしい女の子でした。
というか、すごく可愛いです。美少女です、この方。

すぐ私に目を留めた彼女は慌てて靴を脱ぎ、きちんと揃えてから中に入ってくる。
そして私の前に立つ。




「あのっ、はじめまして!星城波音といいます!
 たくさん迷惑をかけると思いますが、これから一年よろしくお願いします!」




ガバッとお辞儀をした後、少し照れながらも笑ってくれた。
こ、声…!声もとっても可愛いです…!

…はっ!じゃなくてですね、




「え、えっと…と、透雨音と申します。
 こちらこそ、ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします…」




私も彼女に倣い、頭を下げた。
…少し声が震えてしまいました。やはり女の子といえど、初対面は緊張します。

顔を上げると、彼女は不安そうな表情から一転し、ぱぁあっという効果音が付きそうなくらいの笑顔を浮かべていた。
何ですか、この天使。




「はいっ、よろしくお願いします!
 あ…えっと、私は15歳なんですけど…」

「あ、私も15歳です。
 ですので、敬語じゃなくて構いませんよ」

「うんっ。あ、あのっ、雨音ちゃんって呼んでもいい…?」

「はい。では私も波音ちゃんとお呼びしてよろしいでしょうか…?」

「もちろん!」




にこっと微笑んだ顔は殺人級。
可愛いです。さっきから『可愛い』しか言えないくらい可愛いです。

荷物を片付けながら波音ちゃんとお互いのことを話していると、私の近くからガタッという音が聞こえた気がした。
? 何の音でしょうか?
少し気になり、だいぶ小さくなったダンボールの山を崩していく。
すると、一つのダンボールがガタガタと音を立てながら動いていた。
…え?




「…波音ちゃん…」

「ん?どうしたの?」

「だ…」

「だ?」

「ダンボールが動いています…!」

「…えぇ!?」




どこにあるの?と聞かれ、件の物を指差す。
すると、より一層激しく動き出す。




「えっと…あれ、雨音ちゃんの持ち物…?」

「いえ…急に動き出すような物は持ち込んでいません」

「わ、私も持ち込んで無いと思うんだけど…」




では一体あのダンボールは…?

二人で顔を見合わせる。
よっぽど私が怯えているような顔をしていたんだと思います。
波音ちゃんが意を決したようにこう言いました。




「わ、私…開けてみるね…!」

「え…!?」




そろそろとダンボールに近づいていく波音ちゃん。
そして、震える手でダンボールに手をかけた。




「あ、開けるね…」

「き、気をつけて下さい…」

「うん…いくよ…」




えいっ、というかけ声と共にダンボールの蓋が開く。
波音ちゃんが恐る恐る中を覗く。
そして小さく声を上げた。




「えっ…」

「ど、どうしました…?」

「は…ハト三郎さん…!?」

「………はい?」




ハト三郎さん??

酷く驚いた様子の波音ちゃんがダンボールに手を入れ、その正体を取り出す。




「えっと…この子、私が実家で飼ってたハトなの…」

「クルッポー」

「…なるほど」

「でも…どうしてここに…?家にいるはずじゃ…」




そう言って首を傾げる。
それに合わせてハト三郎さん(?)も首を傾げる。…めっちゃ懐いてますね。
ふとダンボールを見ると、中に何か紙のような物が落ちています。
それを拾い、波音ちゃんに手渡す。
ありがとう、とそれを受け取りそれを一通り読んでから説明してくれた。




「私が実家を出た後、ハト三郎さんが飛んで私を追いかけようとしたみたいなの。
 それをたまたまパパが見つけて止めたらしいんだけど、言う事聞かなかったんだって。
 だから、しょうがないからダンボールに穴開けて餌と水入れてここに送ったって」

「それは、また…」




すごい行動力のハトさんですね。
再びダンボールを覗くと餌と水が確かに入っており、先程まで私達には死角になっていた面にはたくさんの空気穴が開いていた。

寮にペットを連れ込んでもいいのかを確認する為、波音ちゃんが出て行く。
…中々インパクトの強い子ですね、彼女。

さて、片付けを再開しましょうか。
もう一度荷物に手をつけようとすると、今度は窓の方から『ニャー』と鳴き声が聞こえてきました。
ね…猫さん!
声の方を見ると、綺麗な黒猫さんが一匹。
か、可愛いです!猫さん!
数歩近寄り、手を差し出すとすり寄ってきてくれました。ひゃー!




「ふふ…やっぱり猫さんは可愛いです」




猫さんを撫でながらしみじみと呟く。
基本動物は何でも好きですが、やはり猫さんが一番好きです。
しばらく猫さんと戯れていると、ただいまーと波音ちゃんが帰ってきた。




「おかえりなさい」

「ハト三郎さん許可貰えたよ!よかったぁ…。
 …?どうかしたの?嬉しそうな顔してる」

「あ、今ですね、窓から猫さんが…」




波音ちゃんにも見せてあげようと振りかえると、そこに猫さんはいなかった。
あれ…ついさっきまでいたのに。




「? 猫さんがいたの?」

「はい…さっきまでいたのですが…帰っちゃったみたいです」

「そっかぁ…また会えるといいね」

「はい…」




波音ちゃんが笑って励ましてくれる。
本当、一瞬の間だったのに…

何故かあの猫さんのことが必要以上に気になってしまい、それからあまり片付けが進みませんでした。

また、会えるでしょうか。
次はもう少し、仲良くなりたいです。





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